昼飯に何を食べようか、ネットで検索してみると、町田に「日本一うまい」とまでいわれるカツカレーを出す店があるそうだ。
僕はカツカレーには目がないのである。だいたいとんかつが好きなのだが、とんかつにかけるにはソースより、カレーのほうが合うと思っている。とんかつの最もおいしい食べ方の一つがカツカレーであるとすら思う。
それが日本一うまいのなら、これは食べてみない訳にはいかないだろう。早速行ってみることにした。
お店の名前は「リッチなカレーの店・アサノ」。
「リッチ」といっても、べつに気取っているわけではなく、「仲見世商店街」という昭和の横丁の雰囲気を残す、エキサイティングなエリアにある。
古びたお店はカウンターのみ7~8席で、今のマスターは2代目らしい。
ふだんはズラリと行列ができるそうだが、年末だったためかたまたま1席だけ空いていて、並ばずに入ることができた。
お店の雰囲気は、フレンドリー。常連さんが多かったみたいなのだが、僕の席を空けるのも、「どうぞどうぞ」と言いながら嫌がらずに詰めてくれる。
だいたい50歳前後とおぼしきマスターが、この手の店にはありがちな偏屈オヤジでは全くなく、一見の僕のような客にも気さくに話しかけてくる。
「料理の写真を撮っていいですか」と尋ねると、
「どうぞどうぞ。初めてですか?」
と返す。
「はい、ネットを見てきたんです……」
初めての店で、いきなり会話が成立する。
「町田高校の卒業生はひとこと声をかけてください」と書かれた貼り紙も貼ってあったりする。
カレーを食べるあいだの短い時間だとはいえ、お店は雰囲気次第で、料理がうまくも不味くもなる。一見のおっさん一人客にもこういう対応をするのだから、ほかのどんな人が来ても、間違いなくくつろげるのではないかと思う。
注文したのは、もちろんカツカレー。
カツはもちろん、注文されてから揚げたものだが、10分もしないで出てきてそれほど待つことはない。
さてこのカツカレー、実際に食べてみて、とてもうまかった。「日本一」というのは、グルメ雑誌『dancyu』がそう評したからなのだそうだが、それだけのことはある。
カツは、ブランド豚を使っているらしいのだが、普通といえば、まあ普通。しかしそれより圧倒的に、このカツカレーのポイントは、カレーにある。
カレーはどれを食べてもそれなりにおいしくて、味のちがいが分かりにくいところがあると思う。スパイスが強烈だから、ベースの味がそれに隠れて、見えにくくなってしまうからだ。
この店のカレーも、一口食べると「普通においしいカレー」なのだが、よく味わうと、味が「太い」。「分厚い」といってもいい。
それもそのはず、このカレーは大量の玉ねぎを炒めることから始まるルーづくりに10時間、ブイヨンスープを取るにも10時間、そしてそれらを煮込み、寝かせてとして、できるまでに4~5日がかかるそうだ。
「究極にリッチなカレー」といっても過言ではないわけで、それにカツがついて1,450円は、「安い」ともいえると思う。
スパイスは、ちょっと辛めで華やかな調合。でありながら、全体としてはやさしい味。
ちょっとこれは、クセになりそうな感じがする。「カツカレーはこの店のしか食べられない」となってしまったらどうしよう、と思うくらいだ。
帰り際にも、マスターは、
「いかがでしたか?」
と尋ねるから、感想を言うと、
「ありがとうございます。お褒めいただきまして嬉しいです」
との答え。
「これだけのカレーを出しながら、あくまで腰が低いのは大したものだ」
と思いながら、気持ちよく店を出た。
リッチなカレーの店 アサノ
- 住所 東京都町田市原町田4-5-19 町田仲見世飲食街
- 電話 042-729-7258
- 営業時間 ランチ11:30〜14:00 LO14:00、ディナー17:00〜20:00
- 定休日 毎週水曜日、第2・第3木曜日