東京に来ているので、きのうは町田を探索し、いかにも昭和の薫りのする、居心地のいい飲食街を見つけた。「仲見世商店街」で、小さな店で酒を飲むのが好きな人には、まさにおすすめ。
おれはもともと、幼稚園のころから反抗期。中学までは、それでも家で食事をしたが、高校に入ってバイトを始めるようになると、もう家には寄りつかず、勝手に遊んでいたタイプ。
なので結婚して独立しても、「実家へ帰りたい」などと思ったことはなく、ましてや離婚して一人になったら、たとえ正月でも、一人で過ごすほうが気がラクだ。
いやもちろん、悪い親だったわけでは、決してない。
おれがそういう、ひねくれた性格なのである。
それでもう、かれこれ20年ちかくも、実家には帰らず、親の顔も見ていなかったのが、おととい、高齢ゆえのちょっとした事故(ご心配いただくほどではありません)があり、その処理に出向かなければならなくなった。
これまでは、体も元気で、とりたてて他人の助けを借りる必要もなかったのが、いよいよそうではなくなってきたということだ。
べつに親に会いたくなくても、長男としての責任は果たさないわけにはいかない。
それでいま、東京、というか、川崎にいる。
事故処理であれこれ駆けまわるなか、ケア・マネージャーさんなど、地域の福祉関係の人たちのお世話になる。ちょっと前から、うちの両親を見てくれていて、おれなどよりも、事情に詳しい。
あれこれと、親身に支援をしてくれて、頭が下がる。
聞くところによると、この福祉関係への国家予算が、削られる方向にあるとのこと。
高齢者福祉は、高齢者のためばかりでなく、それを介護する子供世代のためでもあるということを、今回自分が当事者になり、あらためて感じた次第。
さてそれで、昼間はあれこれとバタバタするが、夜になれば、当然飲む。きのうは、町田へ行ってみた。
実家は、小田急線の奥のほう。
小ぎれいでは決してない、活気のある小さな店がガチャガチャあるのは、近場では、町田だろうと思われた。
小田急線の町田駅で降り、南の方の出口で出る。駅の近くも、大通り沿いにはチェーンの店ばかりがあるものの、一本入ると、おもしろそうな店もあるようだった。
しかし、さらにJRの線路にそって、南東の方向へ下ってみた。
10分ほど歩いてみると、、
あったのだ。
まさに期待通りの、昭和の薫りがプンプンとする飲み屋街。
「仲見世商店街」といって、戦後すぐでき、もともとは、いわゆる食料品店などが並ぶ、ふつうの商店街だったそうである。それがだんだん、飲み屋などの飲食店が入り込むようになり、今ではほとんど、飲食店になっている。
東京も、バブル以前は、こういう場所はたくさんあった。それがバブルで地上げされ、ガード下などの地上げできない場所を除いて、ほとんどがビルになった。
ところがこの仲見世商店街は、いまだに昔のまま残っている。これは、地権者が「お店ごと」になっているからなのだとか。
商店街全体を一人の地権者が持っていれば、その人がそれを売れば、地上げはそれで済む。ところが店ごとだったから、地上げに反対する店があれば、売れない、ということだったらしい。
そういう幸運で、タイムスリップしたように、今に残った昭和の姿。早速なかを歩いてみた。
するとたちまち、強烈な店を発見した。
ビニールシートで覆われているということは、暖かい時期は道に向かってフルオープンになっているというわけで、道ばたで飲む風情を味わえ、飲み屋としては、まさに理想的。
カウンター席10席弱のみの小さな店で、入ってみると、マスターは、多分おれとおなじ世代。
お客さんも、おれと同じか、ちょっと下くらいの人が多かった。
飲みながら、マスターとお客さんが交わす話を聞く。お客さんは、どうやら全員常連さんだ。
マスターは、生まれも育ちも町田の地元民。この店には、そのお仲間の人達が、3代にわたって来ているそうだ。
といって、排他的な感じはない。マスターもお客さんも、闖入者にちゃんと気を使ってくれる。
マスターが、ある常連さんに話している話がおもしろかった。
「飲み屋の友達は、べつに全員『親友』であるはずはない。でも『仲間になろう』という気持ちがなければ、やはり仲間に入ることはできないんだよ、、」
長くやっていて、常連さんが集まる飲み屋は、やはりその店なりのマナーなり、考え方なりがある。
それをきちんと、マスターが、またお客さんが、伝えていくものなのだよな、と、その話を聞きながら、あらためて感じ入った。
常連のお客さんもおすすめの、「煮込み」を頼んでみた。
これが、大変ウマかった。
ホルモンは、煮時間が足りないと、硬いものだ。ところがこの煮込みは、トロトロにやわらかい。
みその味加減も、甘すぎず、辛すぎずでちょうどいい。それがトロトロのホルモンにしみていて、これは絶品。
ビールと酎ハイを合わせて3杯のみ、店を出た。次に行ってみたは、商店街の入口近くにある「焼き小籠包」の店。
「焼き小龍包」とは、はじめて聞いた。中にうまみの汁が入っているから、まずはそれをレンゲに出して飲み、次に中身を食べるらしい。
やり方が分からなくてモタモタしていたら、お店のお姉さんがやってくれた。
なるほど、汁はしっかりとしたコクがある。
中の肉もホクホク。なのに、外の皮は焼かれてサックリしていて、食べていておもしろかった。
小籠包を食べたら、商店街の入口前にある、ラーメン屋に入ってみた。
新しい感じの店構えで、店主も若めの人のようだ。でも今どきのラーメン屋にありがちな気取った感じの店ではなく、名前も「熱血食堂」と、いかにも熱い。
ラーメンと、チャーハンやマーボー丼などの定食が、メインのメニューということらしい。
頼んだのは、正油ラーメンと小マーボー丼のセット。
これで800円とか、そのくらい。
まずラーメン、これがド直球の、東京風鶏がら中華そば。
具も、チャーシューにメンマ、ほうれん草にナルト、煮玉子に白ネギの東京風。
醤油ラーメンは、煮干しダシを加えるなど、今どきのラーメンは、あれこれ小技を加えていることが多いと思う。でもこのラーメンは、清々しいほどに、昔ながらの中華そば。
そして、マーボー豆腐も、いわゆる昔ながらの、やや甘め、トロミたっぷりのタイプ。
そこに、中国山椒的なスパイスが加えられ、アクセントになっている。
やはりおれのようなおっさんには、ラーメンは、ひねりのきいたものよりも、直球が嬉しい。
熱血食堂、仲見世商店街ともども、昭和のよさを今に残す、貴重な場所だと思った。
腹も一杯になり、これできのうは、家に帰った。
事故処理で東京へ来たのだが、完全に旅行気分である。
◎関連コンテンツ