「麗郷」は言わずと知れた、渋谷にある台湾料理の名店。渋谷に勤務先があった僕は、行く機会は多かった。
麗郷の創業は昭和30年。初め恋文横丁にあってそれから今の場所に移転したというこの店は、できた頃から、劇団関係者など当時の若い人たちに広く利用されていたらしい。勤めていた会社でも、上の世代の人たちは「中華といえば麗郷」だった。
中華の中でも「台湾屋台料理」であることと、戦後のドヤ街・恋文横丁発であるということで、味は文句なくウマイにもかかわらず、飾らない、ざっくばらんなところがあるのがこの店のいいところだと思う。
最高におすすめなのは、やはり「シジミ」。
大粒のシジミをたっぷりのニンニクと、たぶん醤油・紹興酒で炒めたもので、目の玉が100回は飛び出るほどウマイ。皿に残る汁がまたうまいから、これをシジミの殻ですくって飲むのが、食べ方のコツとなる。
価格は1000円。やや高いように思うかもしれないけれど、決してそんなことはない。
何しろ量が多いのだ。食べ終わったシジミの殻を取り皿に出していくと、皿が2つ必要になるほど。
シジミを自分で買ったことがある人は、大粒のシジミの原価がどのくらいになるのか知っているはず。それを考えれば、これは「非常に安い」のだ。
ただし量が多いのは、僕のように一人で食べに行く者にとってはたしかにちょっと欠点ではある。
麗郷は、腸詰めも大変うまい。
本当は、これも食べたい。でもツマミ系が2品では一人には多すぎるから、調理場の前に吊り下げられているのを横目で見ながらガマンするしかない。
昔ながらの店だから、セットメニューなども一切ない。
なのでこの店は、2人以上で来るのがおすすめということにはなる。
きのうは次に、家常豆腐(ジャーチャンドウフ)を頼んでみた。
「揚げ豆腐の辛子炒め」となっていて、醤油ベースのピリ辛味。タケノコとピーマン、それにプリプリの豚のホルモンが入っている。
揚げ豆腐は、他の中華屋などだと既製の厚揚げを使っていることも多い。でもこの店では豆腐を自分で揚げて、「分厚い油あげ」といった風情のものになっていて、それが汁をたっぷり吸ったのはとてもうまい。
シメは、やはり最高におすすめなのは、焼きビーフン。
極細のビーフンが、桜えびの味をきかせた塩味で、ふんわりと炒められている。
まずはそのまま食べるべきだが、味に飽きてきたところで卓上に据えられている酢をかけるといい。さらに食べ進んだら、醤油とラー油か腸詰め用の甘辛いみそダレを加えるのも、味の変化を楽しめる。
食べ終わり、禁煙かどうかを確かめる意味もあり、「灰皿をもらえますか?」と聞いた。
すると社長の女性、「あげないけど、貸してあげます」と答えるので大笑い。
勘定をしてもらって店をでて、「どうも安すぎるな」と思い、歩きながら計算してみると、紹興酒の値段をつけ忘れている。
そういう、気取らないばかりかちょっと抜けたところもあるのが、この店の愛すべきところだと思う。
ちなみにここは、麺料理が900円ほどなので、一人なら「異常にうまいラーメン店」として利用するやり方もある。
また宴会メニューも、値段の割にたっぷりの、食べきれないほどの量が出てくるのでおすすめだ。
麗郷
住所 東京都渋谷区道玄坂2-25-18
電話 03-3461-4220
営業時間 [月~金]12:00~14:00/17:00~24:00(L.O.23:30)
[土・日・祝]12:00~24:00(L.O.23:30)
定休日 無休