新宿ゴールデン街へ、はじめて行った。お客さんもお店のスタッフも若い、ふつうの人がとても多くてビックリし、「絶対にまた来よう」と心に誓った。
新宿での夜、岐阜屋で食事をし、酒を飲むために歌舞伎町へむかった。思い出の抜け道をふたたび探索しようと、客引きを次々と、華麗にスルーしながら歩いていると、ふと、思い出の抜け道の、さらにその先はどうなっているのか疑問が湧いた。
そこでキャバクラとホストクラブの電飾で光り輝く区役所通りをわたってみると、、
新宿ゴールデン街だったのだ。
ゴールデン街へは、来たことがなかった。「昭和のドヤ街が好き」と自負するおれが、なぜゴールデン街へ来たことがなかったのかと、我ながら思うところだ。
でも来たことがなかったものは、仕方がない。その遅れを取り戻すべく、早速探索してみることにした。
ゴールデン街は、東西に走る5筋、南北に走る1筋の、細い路地の両側に、木造の小さな飲み屋がびっしりと軒を並べる、広大な一角だ。
店の数は、バブルの地上げで最盛期より減ったとはいえ、いまだに200店近くがあるそうだ。
全体を一つの大家さんが所有しているわけではなく、その店それぞれに権利があり、しかもそれが複雑に入り組んでいるらしい。それで地上げからも開発からも、完全に取り残され、昔の姿をそのままに、今に残しているようだ。
ゴールデン街というとイメージとして、「演歌の世界」という感じがしていた。ところが今回歩いてみて、そのイメージとはまったく違い、若い人がとても多いので驚いた。
店の構えは、いわゆる昔スタイルなのだが、多くの店が、ドアを開け放したり、ガラスの小窓をつけたりして、中が見えるようになっている。
お客は中年のサラリーマンも、もちろん多い。でもそれと同じくらい、スーツを着ていない、若い人たちも多かった。
さらには、外国人の観光客もけっこういる。聞くと新宿ゴールデン街は、ミシュランに「3つ星」として掲載されているのだそうだ。
ドアや小窓から店の中をのぞき込み、どの店に入ろうかと物色している人もたくさんいる。
それもそのはず、ゴールデン街は、お店のスタッフも若いのだ。
おれも一軒一軒、中が見えるところは全てのぞいてみた。すると、いわゆる「水商売」という感じの年季の入ったママや女性は、むしろ少ない。20代~30代くらいの、若い男性や女性が店番をしていることが多く、男性と女性は半々くらい。
しかもそのお店にいる若い女性スタッフが、極めて「ふつう」な感じなのだ。とくにけばけばしいこともなく、OLとか劇団員とかによくいそうな感じである。
おれははじめは、それは「釣り」ではないかと思った。ふつうの女性と見せかけて、実はヤクザの女か何かで、高い値段をボラれるのではないかと疑った。
でもお店を一通り見てみると、そういうふつうな感じの女性が、あまりに多い。それに多くの店が、料金をお店の前に掲示している。
それによると、チャージが500円~1000円、お酒は1杯500円~1000円というところ。これならボラれる心配もなさそうだ。
そこで、一軒の店に入ってみた。
女性がいるお店がいいが、他に男性のお客さんがいるのは面倒だから、何回か巡回し、お客さんがいなくなるのを見計らってのことであるのは、言うまでもないことだ。
お店は、ゴールデン街の北西の端(上の地図だと左下)あたりにある「チキート」。
チャージは1000円、お酒は1杯500円~。
角の水割り500円をたのみ、さらに女の子にビールをおごって、仲良く乾杯。
お客さんは、おれ一人。女の子を独占し、ゆっくり話すことができた。
女の子は30代で、昼間は会社に勤めているそうだ。酒好きが昂じて、この店でアルバイトすることになったらしい。
経営は、年季の入ったママがしていて、そのママは、やはりゴールデン街で別に店を開いている。この店は、日替わりのアルバイトに任せることにしているそうだ。
ゴールデン街に若いスタッフが多いのにビックリしたという話をしたら、女の子はうなずいて、
「そうなったのは、ここ2~3年なんですよ」
とのことだ。若い人が店を開くことも多くなり、急速に世代交代したそうだ。
ところが2020年の東京オリンピックへむけ、ゴールデン街を再開発するという話も持ち上がっているらしい。
「私は、ミシュランにも登録されたくらいだから、むしろ観光名所として残すことに落ち着くんじゃないかと思いますけどね」
と女の子は言うのだが、そうは楽観できないだろう。
この広大な昭和のドヤ街、何としても後世に残してもらいたい。もし反対運動が立ち上がったら、おれも微力ながら協力したい。
女の子とはあれこれ話し、ウイスキーもお代わりし、1時間くらいして店を出た。
「この街は、たまらんな、、」
おれは、思った。
東京に来た時は、またぜひ寄ろうと、心に誓った。