ガッツリとにんにくが入った料理が食べたくなったのだ。
にんにくといえば、やはり中華。
そこで新百合ヶ丘にある中華料理店「青葉川菜館」へ行ってみることにした。
中華料理店はもちろん、新百合ヶ丘駅南側にいくつかあるファッションビルのレストラン街にも入っている。
しかしそういうところはまず間違いなく、新百合ヶ丘周辺に住む中流サラリーマンが好きそうな、高級感があるファンシーな料理を出すだろうと思われる。
そこでちょっと外れたところを選んでみたのだ。
青葉川菜館は、「マプレ食堂街」にある。
マプレ食堂街は新百合ヶ丘駅南口を出てちょっと歩き、さらに階段を下ったわりと目立たない場所にあり、しかもこの青葉川菜館は、お店の外観もそれほどファンシーとはいえないから、新百合ヶ丘の主流とはちがった味を出すかもしれないと思ったのである。
まずはじめに言っておくと、この店はいい店だ。
この日は1月2日で、親戚が集まった家も多かったのだろう、その一族郎党の団体がガシガシと入っていて、円卓やテーブル席を埋めていたにもかかわらず、嫌な顔ひとつもせず一人客をテーブル席に入れてくれた。
ホールの店員も、ママらしき人をはじめとして全員が中国人だったと思うのだが、感じがいい。
レジにいた店員を後ろから呼んだとき、そのままこちらを振り向きもせずに厨房のほうへ行ったから、「気が付かれなかったのだろう、仕方がない」と思ったら、あとからすぐに来てくれて、「この人は背中に目がついているのか」と不思議に思ったくらいだった。
また飲み物も料理も、5分以内にすべて出てきた。
これがお店が暇なときならともかく、団体客でごった返しているときにそうなのだから、ホールも厨房も、働く人は「一流だ」といえそうだ。
まず生ビール。
つまみはザーサイ。
うす味で、ほのかにごま油の香りがし、白髪ねぎと和えてある。
大変うまい。
それから次は、紹興酒。
つまみはシューマイ。
蟹入りシューマイはべつにあるにも関わらず、こちらにも蟹が入っている。
やはりうまい。
そしてメインは、五目かけご飯。
しかし僕はこれを食べ、すべてを合点したのである。
中流サラリーマン家族の団体がガシガシと入っているのを見て、ちょっと嫌な予感はした。
そして実際に五目かけご飯を食べてみて、ハッキリわかった。
この店は、新百合ヶ丘の人気店なのである。
新百合ヶ丘住民に完全に適応し、彼らの好む、まさに高級感があってファンシーな料理を出す店なのだ。
この五目かけご飯、うまくないのかといえば、それなりにはうまい。
たぶんスープに、フカヒレあたりが使われていそうな味がする。
しかし残念ながら、にんにくは全く入っていないのである。
そのかわり、うまみを砂糖の甘みで補っている。
にんにくと同類でありながら、はるかに臭みのないネギですら、入っていると「B級料理」のそしりを受ける日本である。
本来ならにんにくをたっぷり使う中国人でも、高級感を求める日本人のお客には、にんにくは入れられないということだ。
それから一人客向けのセットメニューは基本的にない店だから、料理の値段がある程度高くなるのは仕方がないこととして、売れ筋の酒に高いものを選んでいる。
たとえば生ビールは、「一番搾りプレミアム」となっていて、これは小さめのグラスに入ったものが中瓶ビールより高い値段がついている。
それから紹興酒も、日本酒が1合で400円のところ、「紹興貴酒 五年」というグラスで800円もするものだ。
これは高級感を求めるお客が相手の場合、高級そうなもののほうが売れるからではないかと思う。
マプレ食堂街は、「ちょっと外れたところにある」といっても、新百合ヶ丘駅から5分くらいの場所にある。
むしろファッションビルの中でなく、やや目立たない場所にあることが、新百合ヶ丘住民の人気を逆に高める要因になってもおかしくなかった。
この店がいい店であるのは疑いがないことだし、じっさい新百合ヶ丘の住民に完全に適応するというのは、さすが華僑として全世界で中華料理店をひらく中国人だけのことはあり、それだけこの店が商売人として能力が高いことを意味している。
だから高級感があるファンシーな中華料理が食べたい人は、この店はおすすめだ。
でも僕のように、にんにくがガッツリ入った中華料理が食べたい人には、残念ながらおすすめできない。
にんにくが食べたかったのに、食べられなかった僕は、トボトボと家に帰った。
しかし家には、叔父からもらった黒にんにくがあったのだ。
家に帰った僕はこれをムシャムシャと食べ、にんにく欲をなんとか満たすことはできた。