まあ僕はもちろん世界津々浦々の料理を隈なく知っているわけではないが、日本を除いて、世界の多くの料理は基本的におなじ作り方をするようだ。
それは「まずニンニクや香味野菜の味をつけた油で炒め、次にだしや調味料で味つけした水で煮る」というものだ。
歴史的には、もちろん初めに水で煮る方法が開発された。土器の出現とともに煮ることが始まったと考えれば、日本なら縄文時代、1万5000年くらい前から、人々は物を煮て食べていたことになる。
油で炒めるようになったのはそれよりだいぶ最近で、中国だと1000年くらい前、日本では鎌倉時代に相当する頃らしい。鉄器と石炭による強い火力が普及して以後とのことだ。
それ以降、中国はもちろんのこと、韓国、インド、東南アジア、ヨーロッパなど、世界の多くの国ではまず油で炒め、それから水で煮るという、基本的に2段階で料理をするようになった。
日本だけは、炒める料理法を中国からついぞ輸入しなかったわけなのだが、その理由はよくわからない。
それでは世界の料理で、違いはどこにあるかといえば、味つけのみに限定すれば、まず油。中国ならラードだし、韓国はゴマ油、ヨーロッパならオリーブオイルなどとなる。
油にニンニクおよび赤唐辛子で風味をつけるのは共通だけれど、その他に加える香味野菜やスパイスは、それぞれ異なる。
それから水に味をつけるだしと調味料も、それぞれの地域で異なる。つまり世界の料理は、「大枠は一緒で細部が異なる」というわけなのだ。
これら細部については、実は置き換え可能であることが多い。大枠が同じだから、それぞれの細部が果たす「機能」は、同じようなものなのだ。
例えばトマトソースなら、通常使われるオリーブオイルをゴマ油に置き換えても、味的には問題ない。さらにローリエやハーブをみりんや醤油などで置き換え、パセリはネギで置き換えれば、ミートソースがガッツリとご飯に合うものに変身する。
これは和風味の場合にも、同じように考えられる。みりんや醤油で味付けするゴーヤチャンプルーに、ニンニクと豆板醤を加えれば中華風、キムチを加えれば韓国風の味となり、それぞれどちらも非常にウマイ。
ゴーヤチャンプルーは、中国や韓国では作らないと思うのだ。でも調味料の置き換え理論を適用(この場合は置き換えというより追加)することで、新たな料理を生み出せることになる。
それからこの調味料の置き換えは、食材の相性を類推することにも役に立つ。
たとえばマーボーに豆腐やナス以外のものを入れたいと思ったとき、マーボーに合うかどうかは、まず日本の「そぼろあんかけ」で考える。そぼろあんかけは、マーボーからニンニクと豆板醤を取り除いたものだからだ。
そぼろあんかけには大根やカブを合わせることがあるわけだから、そこにニンニクと豆板醤を加えれば、新種のマーボーができるというわけなのである。
洋風のそぼろあんかけは、ミートソースだ。ミートソースにナスを合わせるのは定番だけれど、その他にも豆腐やカブ、大根などでもウマイのではないかと思う(まだやっていない)。
最近の置き換えメニューで会心の出来だったと思うのは、あさりのミートソース。あさりと豚肉が相性がいいのは韓国の料理(キムチチゲなど)でわかっているから、これを洋風の味で置き換えたというわけだ。