きのうは、カネが振り込まれたから、四条大宮の飲み屋で飲んだ。カネが入ると、仕事をする気がなくなるのだ。
仕事をするつもりで、いつも行っているコーヒー屋へ行った。ノートPCを開き、「さて始めようか」と思った矢先に、携帯にメール着信が入った。
銀行口座への入金を知らせる通知だ。いつも仕事を発注してくれている会社が、送ってあった請求書をさっそく処理してくれたのだ。
その瞬間、、
仕事する気がなくなった。
いやもちろん、カネは1ヶ月にわたって使っていかなくてはいけないのだ。口座に入金されたからって、「たくさんカネがある」と思うのは、まちがいだ。
しかしそうであるとはいっても、口座にカネが入っていれば、使ってもよい気分にはなる。
「今日はもう仕事はやめて、飲みに出よう、、」
そう決めた。
このところ、デモやらカウンターやらが忙しくて、近所の四条大宮には顔を出していなかった。心配もかけていることだろうし、不義理も重ねてしまっている。
それできのうは、久しぶりに四条大宮へ行くことにした。
まず行ったのは、たこ焼き「壺味」。
いまは2代目の大将がやっているこの店は、開業以来20年以上になる、大宮の「ヘソ」とも言っていいところ。常連さんも長い人が多く、まわりに新しい店ができると、その常連さん達が流れていくから、大宮は、「全体が壺味だ」と言ってもいいほどなのだ。
店は、通りに面してオープンになっている。
なので特に夏場は、道で飲んでいるような気分になり、街飲みの醍醐味を満喫できる。
ちょっとした一品から、たこ焼きや、お好み焼き、焼きそばなどなど、料理はどれもおいしくて、またそれがゆっくりと、ていねいに焼かれるから、焼くのを見ながら飲んでいると、気分が落ち着く。
特にスゴイのは「ねぎ焼き」で、これは富士山かと思うほどの山盛りに盛られた九条ねぎを、30分以上の時間をかけて、ペシャンコになるまで蒸し焼きにする。ネギのうま味が凝縮されているわけで、きのうはこれを食べようかと思っていた。
しかしきのうは、残念ながら、団体の予約が入っているということで、ビールを一杯だけ飲んで、すぐに出なくてはいけなかった。
そこで、次に行ったのは「ピッコロ・ジャルディーノ」。
「イタリアンバル」という位置づけで、四条大宮ではもっともオシャレな店の一つだ。
料理はやはりどれもうまく、しかも値段は安い。グラスワインは、360円。
この、マスターが特別に調達するでっかい牡蠣の、香草パン粉焼きも、400円。
久しぶりだから、
「高野さん、どうしてますか?お元気ですか?」
と、心配される。それで手短に、近況を報告する。
この店は、マスターも従業員も、お客に細かく気を使う。話題も提供しながら話しかけてくれるので、一人で行っても寂しい思いをすることはないはずだ。
グラスワインを2杯飲んで店をでて、次に行ったのは、立ち飲み「てら」。
この店は、2階建て飲み屋アパートの奥まった場所にありながら、いつもお客さんが密集している。椅子で座れば6席分ほどのカウンタースペースに、15人くらいいることも珍しくない。
それもそのはず、この店は、料理がどれも、おいしくて、安い。
看板料理は「鶏のお造り」で、これはわざわざ遠方から、それを食べるために来る人がいるほどうまい。その他には、焼き鳥、串カツ、などなどで、どれを食べてもまず後悔することはないはずだ。
きのう食べたのは、まずスパゲティー・サラダ、100円。
豚の天ぷら、250円。
どちらも量もたっぷりあって、考えられない料金だ。しかも実にうまいのだから、お客さんが来ないはずがない。
飲みながら、顔見知りの常連さんとも、少し話す。
もちろんまずは、不在を詫びるところから始めないといけないのは、言うまでもないことだ。
そのうち、常連客の女性の一人が、年明けから、おなじ飲み屋アパートの2階で店を始めることが分かった。てらと同様、立ち飲み屋だとのこと。
これを仲間のお客さんはもちろんのこと、大将も応援している。これはスゴイことだと、あらためて思った。
すぐ近くで、おなじような種類の店を、その店の常連さんが始めるわけだから、大将にとっては、ある意味で商売敵だともいえる。自分の店に来てくれていたお客さんも、大勢が新しい店へも行くだろう。
でも大宮の飲み屋の店主は、それを積極的に応援するのだ。これまでにも、おなじように常連さんだった人が、やはりおなじ大宮で店を始めたのを、おれも2軒、知っている。
普通なら、自分のお客さん囲い込んでもおかしくはないところ、そうして店主が新しい店を応援するから、大宮は風通しがじつにいいのだ。多くの常連さんが店を巡回しながら飲み歩き、それを後押しするために、大宮の店はチャージも取らない。
それにより、大宮の飲み屋街は、全体が一つの飲み屋みたいになっている。「屋台村」みたいなのだ。
しかもそれが、規約などによって定められているわけではない。
それぞれの店の店主の、捨て身の心がけによって維持されているわけで、これはほんとに、スゴイことだと思う。
おれはべつに、全国の飲み屋街を津々浦々まで知っているわけではない。
でもこの大宮のような飲み屋街は、珍しいのではないだろうか。
冷酒と、さらに焼酎を飲んで、てらを出た。もうすでに、いっぱいいっぱいだったから、あとはラーメンを食べて帰ることにした。
行ったのは、大宮から堀川通を渡ったところにある、「麺対軒」。
この店は、おれのようなおっさんが行くには、このあたりでは一番いい。
何しろまず、店がそれほど小ぎれいではないのがいい。ピカピカときれいなラーメン屋は、やはりどうも落ち着かない。
おまけに、かかっているBGMが、昭和歌謡。懐かしい曲ばかりが流れるわけで、まさに「おっさんのための店」といえるのだ。
酒のつまみも、わりかし豊富。だからここで、まず2~3杯飲み、最後にラーメンで締めるという使い方も、十分アリだ。
でもきのうはすでに、酒は十分だったから、いきなりラーメン。
それに半チャーハンがついたセットで、900円。
ラーメンは、京都のもっとも古いラーメン「新福菜館」の流れを汲んだもの。
チャーシューも「これでもか」とばかりにたくさん入って、これだけでも十分、お腹は膨れる。
でもきのうは、さらにチャーハン。
これがまた、うまいのだ。
味つけに、ラーメンのタレを使っている。濃厚なコクがあり、この店は、チャーハンを食べるために来る人も多いと思う。
ラーメンとチャーハンで、死ぬほどお腹が一杯になって家に帰った。酒もいつも以上に飲んでいるから、フラフラだ。
でも外で飲めば、やはり色んな店へ行ったり、色んな物を食べたりしたくなる。
多少の飲み過ぎ、食べ過ぎは、仕方ないのだ。
今日からは、仕事もしてよ。
そうだよな。
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