おれは、「疲れを取るには豚肉とニラ」と決めているのだ。これが最強なのは、まちがいない。
料理を本格的に始めたのは、30代半ばで元妻と別居してからなのだけれど、41歳の時に名古屋へ転勤になったとき、「自炊はやめよう」と一度思った。
自炊をすれば、調理器具やら何やら、物が増えることになる。「あまり物を持たないシンプルな生活がしたい」と思ったのだ。
ところが名古屋で生活を始めてしばらくして、どうにもこうにも、疲れが取れなくなった。朝起きると、体が重くて起き上がれない。
睡眠時間はたっぷり取り、ジムへ通って運動をし、運動の後にはサウナと風呂にゆっくり入るようにしたのだけれど、全然ダメ。
「これは、マズイ、、」
かなり真剣に悩んだのだ。
その深刻な疲れが一気に解消したのが、「豚肉とニラ」だった。
料理を始めること自体は、べつに疲れを取ろうと思ってのことではなかった。何となく、やりたくなったからなのだが、これは、おれの体が「料理しろ」と命じていたに違いない。
調理器具を買い揃え、はじめに作った料理が、豚肉とニラの鍋。これもただ、「食べたかった」だけである。
これを食べ、一晩寝て、翌朝になってみると、、
「前日までひどく疲れていた」ことすらすっかり忘れてしまうほど、疲れが完全に取れていた。
この時から、おれは豚肉とニラの信者になった。疲れると、豚肉とニラを食べる人間と化したのだ。
実際、豚肉とニラの、疲れを取る作用はスゴイのだ。
豚肉には「ビタミンB1」が、食品の中ではトップレベルで含まれるのだそうだ。ビタミンB1は、糖質を代謝してエネルギーを作り出すのに必要不可欠なものなのだとか。
ビタミンB1の欠乏症が、「脚気」だそうだ。日本では江戸時代、玄米を食べなくなったことにより脚気が蔓延、それを解消するために、ビタミンB1が豊富な蕎麦を食べるようになったらしい。
また土用丑の日に食べるウナギも、やはりビタミンB1が豊富に含まれ、夏の疲れを取るには適しているのだとのこと。
このビタミンB1の作用を、ニラやニンニク、ネギなどに豊富に含まれる「硫化アリル」が、さらに促進するのだそうだ。
なので豚肉とニラやニンニクなどを一緒に食べると、体内でエネルギーが作られまくって、疲れが一気に取れてしまうという寸法だ。
話はちょっと反れるのだが、この豚肉も、それからニラやニンニクも、日本では長いこと、食べるのが禁止されていたわけだ。肉は奈良時代から、そしてニラやニンニクは鎌倉時代から、食べてはいけないことになっている。
疲れを取るのに最も効果的な食品2つを食べてはいけなかったのだから、日本人は疲れを取るのに、かなりの工夫が必要とされただろう。
日本人の「風呂好き」と「酒好き」は、ここから来ているのではないかと、おれは踏んでいる。
ロシアや北欧などよっぽど寒い地域は別として、日常的にシャワーではなく、きちんとお湯に浸かるのは、日本人くらいなのではないか。またお酒も、日本人は西欧人と比べると、アルコールを分解する酵素が少ないから弱いのに、しょっちゅう飲む。
これらはべつに、日本人がきれい好きだからでも、お酒を飲んで楽しいのが好きだからでもなくて、単に疲れを取るのに必要だったかではなかろうか。
日本が肉食と葷(くん:ニラやニンニク、ネギなど)食を禁じた影響は、食生活のみならず、日本人の生活・文化に大きな影響を与えたと思うのだ。
というわけで、きのうはおとといのデモの疲れが、まだ残っていたのである。しかも帰りを夜行バスにしてしまい、その座席がまたイマイチだったものだから、あまり寝られなかったというオマケ付き。
これは豚肉とニラにするしかない、、
それで、豚肉とニラのキムチ汁にしたのである。
疲れに関しては、豚肉とニラだけで十分なのだが、豚肉とニラを食べるには、やはり何といってもキムチがある。
しかもキムチも、ビタミンB1と硫化アリルが豊富に含まれているそうで、これを汁にガッポリ入れると、さらに疲れが取れてしまうわけである。
ちなみにキムチを炒めたり煮たりして使う場合、買ってから1~2週間たった、ちょっと酸っぱくなったやつの方がおいしくできる。
もし買ったばかりのキムチなら、数時間でも一昼夜でも常温においておけば、発酵が早まって酸っぱくなる。
フライパンに、
- ゴマ油 大さじ2
- 豚こま肉 200グラムくらい
- キムチ 200グラムくらい
を入れ、強めの弱火で10分くらい、じっくり炒める。
キムチがしんなりとし、うまみの汁がたっぷりと出てきたら、水2+2分の1カップを入れて、10分くらい、弱火で煮る。
- おろしショウガ 1センチ大くらい
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- 淡口醤油 大さじ1(味を見ながら)
で味付けし、
- タテ半分にし、ヨコにうすく切った玉ねぎ 小1個
- 手でちぎった木綿豆腐 2分の1丁
を加えて、さらに弱火で10分くらい煮る。
味を見て、必要なら塩を入れ、火を少し強めて、
- 石づきを落としてバラしたしめじ 1袋
- ざく切りのニラ 1把
を入れ、1~2分、しんなりとするまで煮る。
どんぶりによそって食べる。
もちろん、ご飯も一緒である。
これは、うまい、、
疲れている時は、この豚肉とニラ・キムチの滋味が、五臓六腑にしみ渡るようだ。
酒は、冷やした日本酒。
きのうもまあ、飲み過ぎるわけなのだ。疲れた時には、酒もまたうまいわけで、飲み過ぎると翌日酒が残ってかえって疲れるとわかっていても、飲み過ぎる。
おかげで予想通り、今日は疲れは取れたものの、酒が残ってしまったわけだが、うまいものを口にするのは人間の本能だから、これは仕方がないのである。
「懲りないね。」
ほんとにな。