世界は、まず石ころや水など、モノからできている。次にそこで生きる人間がいて、人間も、世界を形づくる一員となっている。
でも世界を形づくっているのはそれだけではなく、人間以外の他の生き物がいる。
他の生き物とかかわり、それらが形づくる世界を知るためには、科学的な方法もあるだろうし、飼って可愛がったり、鑑賞したりのこともあるだろう。
しかし人間が、他の生き物の世界を知るもっとも直接的で、かつ強力な方法は、「料理をすること」なのである。
料理に使われる材料は、塩と水を除いてすべて、他の生き物に由来するものだ。動物から植物から、酵母などの微生物から、莫大な種類の生き物を、人間は料理の材料にする。
そうやって料理をしながら、日々、かなりの発見があるわけだ。
もちろんまずは、火の通し方や味のつけ方がある。材料それぞれの特性にあわせ、やり方を見つけることになる。
しかし、もっとも奥深いと思えるのは、「材料どうしの相性」だ。
たとえばブリと大根の相性がいいとして、ブリは海に住む魚、大根は山に生える植物だから、おたがい縁もゆかりもなさそうだ。縁もゆかりもなさそうなのに、相性がいいのだから、その相性は、まさに人間によって「発見」されるわけである。
その発見の膨大な集積により、料理は成り立っている。
料理はまさしく、他の生き物が形づくる世界を知ることなのである。
料理をしないクソな男は、この他の生き物の世界を知らない。彼らにとって世界とは、石ころや水、そして人間だけによって構成されている。
そんなちんまりとした、非現実的な世界では、ロクなことを考えられないのは当然だろう。
しかし、ちんまりとした世界しか見てない奴は、もっと広い世界があることなど思いも及ばないにちがいない。
まったく、可哀相な話である。
さてきのう、ツイッターを見ていたら、カウンターで仲良くしてもらっている男性が、次のようなツイートをしているのを見かけたのだ。
誤解がないよう注釈を入れておくと、「歯がない」のは、この男性が歯科治療の最中だからだ。
このツイートを見て、瞬間的に「ウマそう」と思った。
実はこれまで、イカわた炒めを何度となく作ってきている。檀一雄レシピの「スペイン風」でやれば間違いなくうまいのだが、ニンニクを使うので、家では作らないようにしているわけだ。
そこでこれまで、甘辛く、コッテリとしたみそ味で作っていて、それも決して不味いことはないのだが、何かひと味足りないような気がしていた。
そこに、韓国風と聞き、「なるほど」と膝を打ったのだ。
ちょうど丸ごとのスルメイカが冷凍してあったから、それを使い、「韓国風にイカわた炒めを作ろうと思う」と返信したら、さらに次の返信があった。
さらに「なるほど」と膝を打ち、これを作ることにした。
冷蔵庫には、スーパーで買ったからそれ程おいしくないにせよ、買ってから2週間ほどが経ち、酸っぱくなって、炒め物にするには 食べごろのキムチが入っていたからだ。
材料は、スルメイカ1杯と、スルメイカと見た目同量くらい(=たっぷり)のキムチ、それに九条ねぎとしめじも入れた。
これに、うどんも添えることにした。
イカわた炒めはどういうわけか、ご飯よりうどんが合うのである。
スルメイカは、スーパーにあるものでも、捌かずに丸ごとのまま売られていれば、わたを炒め物に使うことは十分できる。
胴の内側にタテに入っている軟骨と、足の根元にあるクチバシだけをとり除き、あとはわたももろともブツ切りにする。
器に入れ、
- 酒 大さじ1
- おろしたショウガ 2センチ大分くらい
- みそ 小さじ1
- 砂糖 小さじ2分の1
- 塩 小さじ2分の1
- キムチの汁 あるだけ
と一緒にもみ込んで、すこし置く。
10分くらいでもいいが、置いておけばおくだけ、味はよくなる。
フライパンに、大さじ3くらいのゴマ油とキムチ、それに小さじ1くらいの豆板醤(コチュジャンでももちろんいい)を入れ、中火にかける。
1~2分炒めてから、漬け込んでおいたイカを入れ、さらに1~2分炒める。
イカは、火を通しすぎると硬くなるから、炒め過ぎないのが肝心だ。
ざく切りにした九条ねぎと、バラしたしめじを加え、さらに炒める。
しんなりしたら味を見て、塩加減して火を止める。
皿に盛り、お湯でもどし、くっ付かないように小さじ1くらいのゴマ油をからめた、うどんを添える。
イカわたとキムチは、鬼のように合う。
なぜ今までこれに気付かなかったかと、つくづく思った。
それからきのうは、豚肉のわかめスープも作った。
冷凍庫に豚ひき肉が入っていたからで、本当は牛肉を使えば、まさに韓国風になる。
鍋に3カップ半の水と、豚ひき肉150グラム、ショウガのうす切り2~3枚を入れて、中火にかける。
煮立ったら弱火にし、アクを取りながら20分くらい煮る。だし殻は、煮干しとおなじで、とり出さずにそのままにしてしまっても悪くない。
だしに、
- 酒 大さじ3
- オイスターソース 小さじ1
- 塩 少々
で味をつけ、わかめを20~30分、トロトロになるまで煮る。
お椀によそい、ひねり潰したゴマを振る。
やさしい味で、これまたウマイ。
あとは、春キャベツの塩もみ。
ざく切りにした春キャベツ8分の1個分に、小さじ2分の1くらいの塩をもみ込み、しばらく置いてよく絞り、ちりめんじゃこと、たっぷりのレモン汁(ポッカレモン100)で和える。
それに、キムチ。
酒は、冷や酒。
自分の作った肴で飲む酒は、じつにウマイ。
この酒の味を知らないのも、料理をしない男の可哀相なところである。
「彼女がいないのも可哀相だよ。」
そうだよな。