電気風呂を初めて体験したのである。

チェブ夫 もろもろ

 
いつも行っている銭湯が休みで、別の銭湯へ行き、電気風呂に入った。

チェブ夫

電気風呂を、初めて体験したのである。

 

 

風呂に入らなくても臭くなったり、痒くなったりしないことは、これは本当に間違いなく、まだ試してはいないけれど、一週間くらいは大丈夫なのではないかと思う。汗をかいたらお湯で絞ったタオルで拭けば、それだけで、風呂には永遠に入らなくてもいいのではないかという気すらする。

 

ただし風呂に入らないと、やはり疲れが溜まってくる。風呂に入るのは、汚れより、疲れを取るほうが、目的として大きいのではないか。

特に四十を過ぎてくると、疲れは深刻な問題になってくる。きちんと取るようにしておかないと、日常生活が立ち行かない。

それできのうは、3~4日風呂に入らないでいるうちに、そろそろ疲れが溜まってきたようだから、銭湯へ出かけたのである。

 

いつも行っているI湯は、家から歩いて5分くらい、武信稲荷神社の近くにある。そこより1分ほど近い場所にも銭湯はあるのだが、ちょうど引越した頃から改装のため休業となり、もう新装オープンはしたのだが、行き慣れたI湯へ行くようになっている。

I湯は設備がわりと新しく、小ぎれいである上に、おばちゃんの愛想がよく、しかも貸しタオルは無料、料金も、常連になると端数をおまけしてくれる。浴槽は奥へ長い、大きなやや浅めのが一つで、浴槽の長い方の壁には、空気が勢いよく噴き出る口が手前から奥へ6つ並び、計6人が、背中に空気を当てながら、脚をのばして湯に浸かれるようになっている。

脱衣所を出たところにサロンもあり、ビールが飲めるようになっていて、銭湯としては変わった造りだが、おばちゃんとご主人が、改装にあたって頭をひねり、あれこれ考えたのだろうと思うと微笑ましい。

 

黒門通を上がり、六角通を西へ行く。大宮通を越え、武信稲荷神社の角を右に曲がる。

曲がると、ちょっと先にあるI湯なのだが、どうも店の前が暗いようだ。近付いて、入り口の前に来てみると、「トイレ工事のため臨時休業します」と貼り紙が貼られている。

ガッカリし、

「これは神様が、きょうも風呂に入らなくていいと言っているのか・・・」

ぼくは思った。

 

たしかにまだ、風呂に入る深刻な必要性を感じているわけではなかった。臭いもしないし、痒くもない。

帰ろうかとも思ったが、しかしきょう、銭湯へ来たのは、汚れを落とすためではなかったのである。そろそろ溜まってきた疲れを取るためだった。

「もしかしたら・・・」

ぼくは神様の意図が、別のところにあるのを悟った。

 

I湯にはないのだが、京都の多くの銭湯には、「電気風呂」がある。浴槽の壁に電極が設置してあり、弱い電流を流すことで筋肉を刺激して、血行を促進し、疲れを取るというものだ。

湯に手を入れると「ビリビリ」と来て、怖いから入ったことがなかったのだが、少し前、バーで女性が、

「電気風呂は気持ちいいよー」

と話しているのを聞いた。ぼくがまだ入ってことがないと言うと、

「ぜひ入ってごらんよ」

と言われ、その女性に再度バーで会ったとき、

「もう入ってみた?」

とまで聞かれたのに、まだ入ったことがなかったのだ。

 

I湯から、歩いて3分ほどの場所に、T湯がある。T湯には、電気風呂がある。

「神様は、T湯へ行って電気風呂に入れと言っている・・・」

ぼくは覚悟を決めたのである。

 

T湯へ向かい、お金を払って脱衣所で服を脱ぎ、タオルを持って浴場へ入る。体を流し、まずはふつうの浴槽に浸かる。

「気持ちいい・・・」

やはり疲れは、溜まっていたようだ。ふくらはぎからチリチリと、疲れが抜けていくのが感じられる。

しかしもちろん、ぼくが今日ここへ来た目的が、それでないことは分かっている。

 

電気風呂は、いま浸かっている浴槽の隣にある。ぼくはゆっくりと浴槽を出ると、電気風呂の前へ行き、まずは浴槽の前にしゃがんで、湯に手を差し入れてみた。

「おー・・・」

ビリビリきた。

手を、さらに電極の前あたりのところへ伸ばしてみる。

「おおおーーー」

電流は、やはり電極の前は強いようで、筋肉が痙攣するような刺激がある。

 

しかしここまで来て、電気風呂に入らないわけにはいかない。あきらめて、まずは電極から遠い、手前のところに入り、湯の中の段差に腰掛ける。

「意外に大したことないな・・・」

電気の刺激は、思ったより強くない。

しかしもちろん、こんな端っこに入ったくらいで、「電気風呂に入った」とは言えないだろう。やはり電極と電極のあいだに、座ってみる必要がある。

 

ゆっくりと電極の方へ、体を動かす。その瞬間、

「おおおおーーーーっっっっ」

腰のあたりに、のけぞるような刺激があり、ぼくは急いで端っこへ戻った。やはり電極のあいだは、かなりの刺激があるようだ。

手を伸ばし、電極のあいだで動かしてみる。すると、電極のあいだでも、電極に近い場所は刺激が強いが、電極から少し離れたところは、刺激はそれほど強くない。

 

そこで改めて体を動かし、電極から少し離れた、浴槽の真ん中あたりに入ってみた。

「おー、いい感じだ・・・」

1秒間に5回くらいだろうか、電流に刺激され、腰の筋肉がかるく痙攣する。その痙攣で、腰から背中にかけてのあたりが、マッサージされるようになる。

初めての体験だが、悪くない。電極のすぐ近くは、刺激が強すぎてまだ難しいが、少し離れたところに入れば、心地よく感じられそうである。

 

風呂から出て、体を拭いて服を着て、銭湯からの暗い帰り道を歩く。腰のあたりは、まだじんわりと、感覚が残っている。

マッサージの効果は、噴き出す空気を当てるより、ずいぶんと高そうだ。

 

歩きながら、ぼくは思った。

「ぼくは、以前のぼくとは違う・・・」

 

そう、今のぼくは、以前のように、電気風呂に入ったことがないぼくではない。

電気風呂に、入ったことがあるぼくなのである。

 

「また電気風呂があったら入るの?」

チェブ夫

それはどうかな。

 

 

 

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