図らずも夜の散歩をすることとなった。
散歩しながら、「蚊はアタマが悪いのだろうか」と考えたのである。
夜部屋で酒を飲んでいたら、
「ぷーん・・・」
どこから入ってきたのか、蚊が耳の横を飛んでいった。壁に達し、そのまま壁づたいに部屋を一周したかと思うと、後ろの入り口からキッチンへと出て行った。
「もう蚊の季節になったのか・・・」
梅雨だというのに、もうすでに真夏のような陽気だから、蚊も元気を吹き返したのかもしれない。
それまでも、蚊を見てはいた。でも冬場から春先に出てくる蚊はいかにも元気がなく、弱々しく壁に貼りついて動かない。「人を刺そう」など考えてもいない様子だったから、いつもそのままにして殺さずにいた。
だいたい、生き物を殺すのはあまり好きではない性分だ。食べ物は別として、庭の雑草もほかの家は全部きれいに取っているのに、うちの前はそのままにしている。でもそれが黄色や白の花を咲かせるのを見ることは、それほど悪いとも思えない。
1時頃まで酒を飲み、それから片付けをして布団に入った。ところが4時頃になって、目が覚めた。
「かゆい・・・」
腕やら足やら、10ヶ所ほどが、熱を帯び、ぷっくりと膨れている。さっきの蚊に刺されたのだ。
「夏の蚊を甘く見た・・・」
急いでキンチョールを部屋中にまいたが、もう後の祭りである。
かゆくてかゆくて、布団に入ってみてももう寝るに寝られない。仕方がないから服を着て、ムヒを探しに外へ出た。
夜の帳にひっそりと包まれる大宮の街。店はもう、どこも営業を終えている。
コンビニへ行ってみた。
「ムヒ、ありますか?」
最近はコンビニでも、薬局で売るようなものを置いている。ムヒがあってもおかしくない気がしたが、置いていなかった。
「虫除けスプレーならあるんですがね?」
それではもう、手遅れだ。
コンビニへはもう一軒行ってみたけれど、そちらにもない。
ドラッグストアへも行ってみる。隣の王将一号店は煌々と明かりがついているのに、ドラッグストアは看板だけは明るいが、店の中はまっ暗である。
がっかりし、家に帰ることにした。帰りの道を歩きながら、考える。
「どうして蚊は、わざわざかゆくするのだろう・・・」
蚊も生きるために動物の血が要るのだろう。ならばかゆくさえしなければ、少しくらい分けてやるのはやぶさかではないのである。
なのに血を吸い取るとき、わざわざ余分なことをしてかゆくする。だからキンチョールを吹き付けられてしまうのだ。
世の中には、人間と共存共栄している生き物もたくさんいる。肌や腸の常在菌も、人間の役に立つことをして、そのかわりに養分をもらっている。
蚊は、なぜそれができないのだろう。
「アタマが悪いのではなかろうか・・・」
そんなことを考えているうちに、家に着いた。
外に出て、少し体が冷えたからかもしれない。かゆみは治まり、布団に入るとすぐに寝られた。
でも夜の散歩は余計だった。
翌朝は、いつもより寝坊してゴミ出しに間に合わなかった。
「きっと考えが足りないんだよね。」
そうかもな。
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