五十になったあたりから、歯がすぐ痛くなるようになってしまった。
おかげで毎日、歯ブラシはもちろん、歯間ブラシまでしているのである。
子供の時代から二十代中ごろまでは、人並みに虫歯になり、奥歯には詰め物やかぶせ物もいくつもある。でもそれ以降はしばらくほとんど虫歯などにはならず、歯医者へ行くのは歯についたタバコのヤニを取るためだけということがずっと続いた。
いちおうは朝晩二回、歯を磨いてはいたが、それほど熱心でもなかったから歯は強かったのだろう。
ところが今は、食事をしたらかなりきちんと歯を磨き、さらに晩には歯間ブラシまでしないとすぐ歯茎が痛くなる。歯茎や歯のすき間に食べ物がつまりやすくなったからで、これはもう、年のせいとしか言い様がない。
きっかけは4年ほど前、奥歯が猛烈に痛くなり、歯医者へ行ったら歯の根元が炎症をおこしているということで、かなり時間をかけて治療をした。それから2年ほどして、今度は反対の奥歯がまた痛くなり、これも治療に時間がかかった。
その他にも、何かと歯が痛くなることが増え、そちらは虫歯ではなく歯周病とのこと。ちゃんと歯磨きしないとダメだと、歯磨きの指導を受けた。
それでも歯が痛くなるのが止まなかったため、ついに歯間ブラシを勧められるに至ったというわけである。
ただしこの歯磨きや歯間ブラシの指導については、「極楽」とも思えるほどで、大好きだ。治療が男の先生が、ドリルで「ガリガリ」「キンキン」やるのとは打って変わって、歯磨き指導は若い女性の歯科衛生士が担当する。
顔を近づけ、歯ブラシを口に差し込み、歯をやさしく磨いてくれる。またちょっと厳しめの口調で注意点などの指導がある。
このためだけなら、何度でも歯医者に行きたいくらいである。
さらに「これはサービスなのか」と思ったのだが、衛生士の胸が、指導の最中おでこの上に乗せられる。ウソではない。
しかも一度きりで終わらずに、その衛生士は指導のたびにそうしてくれた。
ただしこれは、後になって歯医者に勤める女性に聞いたら、サービスではないそうだ。熱心な人の場合、仕事に夢中になるあまり、胸の防御を忘れてしまうということらしい。
というわけで、衛生士の熱心な指導の甲斐あり、ぼくは毎晩、歯間ブラシをするようになっている。
歯間ブラシをサボってしまうと本当にすぐ歯が痛くなるから、もうぼくは、歯間ブラシがなかったら生きていくのが難しい。
右上の奥歯と奥歯のあいだのすき間が、洞窟のようにどん詰まりになっているのである。歯間ブラシをそこに入れると、かならずでっかい食べ物カスが取れてくる。
初めのうちはデンタルフロスも使っていたが、歯間ブラシだけで大丈夫そうだとそのうちわかった。
歯間ブラシはサンスターGUMの「SSS」、いちばん細いのを使っている。小林製薬のゴム製のやつも使ってみたが、これはブラシの根元が細いので、一回か二回使うとダメになる。
GUMのは少し高いが、キャップも付いて一本を一週間くらいは余裕で使うことができるから、結局はお得である。
「これからますます病院のお世話になると思うよ。」
そうだよな。
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