15年ぶりの再会となる友達と、「酒房京子」で食事をした。
そのまま酒房京子に延々と居座り、結局明け方になってしまったのである。
「明け方まで飲む」というと、酒を飲まない人には理解できないだろうと思うが、実際のところ簡単な話で、酒は飲み始めると、あっという間に明け方になってしまって、明け方にならない方が難しい。
酒を飲むと、どういうわけか、酔いが回ってくるに連れ、時間が経つのが早くなり、特に深夜12時をすぎると、明け方までは「一瞬」なのである。
朝まで飲むと、次の日は夜まで、酒が残ったままになるから、さすがに毎日朝まで飲むと、ぼくも生活が成り立たず、この頃は用心して、外で飲むのはできるだけ早い時間にするようにしていた。
昨日も酒房京子には、午後6時頃には行ったのだが、にも関わらず明け方になってしまうというのだから、我ながらアホすぎて、自分で自分を鼻で笑ってしまうよまったく、という話だ。
友達はぼくより5つ下で、東京にあるゴルフ練習場の社長をしている。
ぼくが昔通っていた語学サークルの仲間で、その後ぼくがスタッフをしていたカレッジにも来たから、かれこれ10年くらいは付き合っていた。
最近になってフェイスブックでのやり取りが再開し、それで今回、京都へ来る機会があるから、会おうという話になった。
何やらぼくに、頼みたいこともあるという。
友達を連れて行ったのは、ワンパターンだが「酒房京子」。
他府県の人を案内するのに、ぼくはいつも酒房京子を使うのだが、京都らしい、趣きのある料理が安い値段で食べられて、さらに女将京子さんの人柄で、楽しい時間を過ごせるので、間違いなく喜んでもらえる。
昨日出てきたのは、まずは「まだ何も支度していないから」と、買ってきたサンマ寿司。
それからナスの田楽。
田楽味噌は、白味噌にみりんと砂糖を混ぜるだけで作ってしまうとのことだったが、大変うまい。
京子さんの料理は、うまいだけでなく、簡単で早いのが特徴だ。
鶏すき。
鶏肉にモツ、九条ねぎ、さらに松茸が入っている。
新サンマの炊いたん。
長い時間炊くだけでなく、炊いては火を止め、味をしみさせて、を何度か繰り返すのだそうだ。
脂が乗って、とろけるように柔らかく、かつ味が芯までしみている。
冬瓜とタコの炊いたん。
さっき冬瓜を剥いているかと思ったら、あっという間に出来てきた。
冬瓜はねっとりと、柔らかく炊けている。
漬け物。
トマトはわさびに出汁、さらにオリーブオイルで漬けたそうだ。
ミョウガの酢の物。
ぎんなん。
ハモの酢の物。
焼きうどん。
豚肉とレタスが入り、粉山椒がかかっている。
昨日もどれもうまかった。
これだけのものを、2人でそれぞれが食べ、お酒を延々、何杯飲んだか分からないほど飲み、お勘定は2人で1万4000円というのだから、全く考えられない話である。
友達は10年前、まだ支配人だった頃、「東京一の笑顔」をキャッチフレーズに、それまでは主におじさん向けだったゴルフ練習場を、30代の女性にはっきりとターゲットを絞る、大きな方向転換をしたのだそうだ。
それが大成功を収め、その「馬込ゴルフガーデン」は現在でも、一打席あたりの売上げが、全国トップなのだという。
友達はターゲットとする女性の年齢を、「33歳」とさらに明確に表現していて、
「33歳というのは何が理由でそう決めたの?」
と聞いたら、
「何だか分からないけど、その数字が降ってきたんだよ」
とのことだった。
あとで市場調査してみたら、ゴルフ練習場のあるエリアは、最寄り駅の西馬込が都営地下鉄の終着駅で、銀座まで座って一本で行けることから、OLが特に多く住んでいることが分かったとのこと。
一種の天才なのだろう。
ところが馬込ゴルフガーデンの大成功を、他のゴルフ練習場がこぞって真似をしたことで、「業界の地盤沈下」を招くことにもなったそうだ。
友達は、ゴルフスクールをスタートさせ、さらに発表会としてゴルフコンペを開催するなど、30代女性に楽しく来てもらうための企画や仕組みを念入りに作り上げたのだが、他のゴルフ練習場は、その形だけを真似、企画や仕組みなどの内実は、ほとんどがなおざりだった。
そのため女性も集まらず、さらに男性客の離反を招いてしまったそうだ。
「ぼくのせいではないとはいえ、ちょっと申し訳ない気はするよ・・・」
友達は苦笑いしていた。
5年前、お父さんの後を継いで社長になった時には、それまでの支配人とは全く異なり、「未来を創造するのが社長の仕事だ」ということを悟って、重圧で押し潰されそうになったそうだ。
それでどういう訳か、小唄と三味線を習い始めた。
ゴルフ練習場と小唄とが、どう関係するのか分からないが、友達によれば、
「見えないものを見る、感性を磨こうと思った」
のだそうだ。
この突飛な発想も、やはり天才のものだろう。
ちょうど店に置かれていた京子さんの三味線を、友達は手にとって、唄いはじめた。
なかなかの腕前である。
それを受け、京子さんも習い始めの三味線を披露する。
いつもはカラオケで盛り上がる酒房京子なのだが、昨日は打って変わって趣深い雰囲気であった。
友達がぼくに頼みたいことというのも、ゴルフとは全く関係ない、カレッジ当時に研究に取り組んでいた、ある文字システムに関することだった。
しかもそれを事業化するという話ではなく、現在世界支配を強めようとする、中国に提案しようと言う。
「ゴルフはこれからはもう頭打ちだから、次のテーマを見つけないといけないんだ」
と友達は言うが、文字システムがゴルフ練習場の次のテーマになるとは思えず、さらに「中国に提案する」というやり方も、話があまりにデカすぎる。
「天才のやることは分からんわ・・・」
ぼくは半ば呆れながらも、打ち合わせを継続することは承諾した。
話をするうち、時刻はあっという間に12時を過ぎたが、友達は帰る気配がない。
食事もひと段落し、飲むのを控えようとしていたぼくだが、京子さんと友達の話が盛り上がっているので、再び飲み始めることにした。
そうこうしているうちに、熊の男性が入ってきた。
こうなったら、もう最後である。
熊の男性は、深夜から飲み始め、朝まで飲む。
熊の男性といっしょに飲むということは、朝になるのは確定したということだ。
友達は、4時頃にフラフラと帰って行った。
ぼくはさらに5時過ぎまで飲み、意識朦朧として家に帰った。
今日は絵に描いたような日本晴れ。
しかしぼくは、昼過ぎに起き出して、しばらくはぼんやりし、ようやくノロノロと支度をして夕方になってタリーズへ来て、それから働かない頭を四苦八苦させながらブログの更新をしはじめて、今ようやくそれが、終わろうとしているところである。
「自分から『帰ろう』って言ったらいいのに。」
そうなんだよな、本当に。
◎「酒房京子」の情報
大宮通錦小路下ル東側寛游園内 北側の細い路地を入って南側2軒目
(不定休で、営業時間もマチマチなので、メールアドレスを入れてコメント送信してもらったら、京子さんの携帯番号をメールで教えます)
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