四条堀川にあるラーメン屋「麺対軒」。ラーメンがうまいのはもちろんのこと、ドヤ街的な雰囲気があって居心地よく飲めるのがおすすめ。
ラーメンに関しては「オタク」みたいな人も多い。たしかにラーメンは値段が安く、そのうえ地域や店によって他の食べ物とは比較にならないくらい味の違いが大きいから、それらを食べ歩き、比べて回るのが楽しいのはよくわかる。
でももうこの年になるとそれも「面倒くさい」と思うようになるわけで、味はある程度うまければそれでいいから、それよりはその店でどれだけ居心地よく過ごせるかの方が大事になってくる。
こちらは、酒を飲むのである。
だからまずはちょっとしたツマミで酒を2~3杯飲み、それからラーメンやチャーハンでシメるという、その一連の流れをどれだけ重視しているかが、店を選ぶ際には決め手となる。
新しいラーメン店は、それが足りない場合が多い。多分若い人が酒をあまり飲まなくなっているからだろう。酒は缶ビールだけ、ツマミもラーメンのトッピングであるチャーシュやメンマ・煮玉子などを盛り合わせたものだけ、という店が圧倒的だ。
その点、古手の店はしっかりとしていることが多い。酒はビールだけでなく、チューハイや日本酒くらいまでを取り揃え、ツマミも関西の場合なら、最低でも餃子にキムチくらいはある。
四条堀川にあるラーメン屋「麺対軒」も、そういう店。
といってもここは、べつに「古手」というわけでもない。たぶんまだできて10年くらいだと思うから、わりと新しい方に入るのではないかと思うのだが、経営努力の一つとして酒飲みのことをきちんと考えているのだろう。
何しろここのラーメンは、京都の老舗ラーメン屋「新福菜館」の流れを汲むものだから、新しさを尊ぶラーメンオタクを惹き付けることはむずかしい。それで主要顧客層として、おれのような「酒飲みのおっさん」をターゲットとしているのではないか。
まずは店に入るとビールを一杯。
生ビールは380円で、「かなり安い」部類に入ると思うが、さらに「餃子セット」という、生ビールに餃子5個で400円という信じられないメニューがある。
当然それを頼んで、さらに餃子を待つあいだ、キムチをつまむことにする。
このキムチも、なんと150円。
しかも「ほし山」という、京都ではトップブランドのけっこう高いキムチをたっぷりと出しているから、「出血サービス」といえるものだ。
ビールを2杯くらい飲んだら、やはり「チューハイも頼もう」となる。
これが缶で出てきて、450円。氷の入ったジョッキなら、2杯分近くになる。
そしてさらにツマミはメンマ、これが100円。
ラーメンのタレで濃く味付けされ、酒のツマミには打って付けというやつで、しかもかなりの量がある。
この店では、メンマはラーメンのトッピングとしては使われていないから、これはツマミ専用メニューということだ。
その他に、ツマミはチャーシュー・キムチ・メンマの三種盛り、ねぎチャーシュー、付き出し肉、豚キムチ。
豚キムチもツマミ専用メニューなわけで、この店はラーメン店としては最大限、「酒飲みに配慮している」といえると思う。
しかし、それだけではないのである。この店の「酒飲みのおっさん」にたいする配慮は、ハンパじゃない。
まずBGM。これが、昭和歌謡。
きのうも流れてきたのは、沢田研二にチェリッシュ、黒沢年男「時には娼婦のように」、夏木マリ、小林旭「昔の名前で出ています」、佐良直美「世界は二人のために」、奥村チヨ「小指の思い出」などなど。
おっさんは懐かしくなり、くつろげること甚だしい。
さらに、店の内装。
ベニアがむき出しになっている。
これは店主に直接聞いたわけではないから、確かではない。確かではないけれど間違いないと思うのは、これは元々貼ってあったクロスを剥がしたのだ。
この店は、全体の作りとしては、わりと洒落ている。調理場の天井は、白い化粧板で覆われている。
客室の天井は、コンクリート打ちっぱなしで、そのコンクリートは白く塗られている。
柱は黒や濃い茶だし、多分元々は、「白に黒」のモダンな作りではなかったか。
その店舗を借りることになり、麺対軒の店主は、まずどぎつい赤色のカウンターを据え付けた。そしてクロスを無理やり剥がした・・・ということなのだ。
つまりこの店のざっくばらんな「ドヤ街的な雰囲気」は、店が古いから巧まずしてそうなっているわけではない。
店主が明確に意図した結果、そうなっているのである。
しかもおそらく、その内装の変更にあたり、デザイナーは関わっていないと思う。なぜならどぎつい赤のカウンターおよびベニアの壁と、他の部分のバランスがまったく取れていないのだ。
よく昭和の時代を模した内装の店がある。最近は、そういうのが流行っているようだ。
でもあれはあくまで「ニセモノ」なのであり、いくらホーローの看板などを置かれても、当時を実際に知っているおっさんから見れば、鼻白んでしまうだけだ。
全体の調和が取れすぎているからだ。
ところがこの店のドヤ街的な雰囲気は、ホンモノだ。長い年月にわたって多くの人が全体を考えることなしに手を入れてきたことによる、ドヤ街独特のアンバランスなセンスが、店主の強引な内装工事によって見事に再現されている。
これがまた、おっさんとしては落ち着くわけだ。
こういう店は、ありそうで、なかなかないと思う。
きのうはシメに、ラーメンの大盛り。
この店は、ラーメンはもちろんのことうまくて安い。
新福菜館の流れを汲んだ濃いめ、甘いめのしょうゆ味に、酢とニンニク、たっぷりの背脂が加えられていて、麺は強いコシがあり、トッピングにはたっぷりのチャーシューともやし、それに青ねぎ。
値段は、並が670円、大盛り830円だから、「安すぎる」と思うほど。
きのうは結局、酒を4杯にこの大盛りラーメンを食べ、とても満足したために、寄り道はせずに家に帰った。
そのまますぐに布団に入り、朝まで一度も起きずにぐっすり寝た。
麺対軒
- 住所 京都市下京区四条堀川東入る柏屋町14
- 電話 075-241-1851
- [月~土]11:00~24:30、[日]11:00~23:00
- 定休日 火曜日