夏は、やはりナスなのだ。
ナスは、体を冷やす効果が高いらしい。「秋ナスは嫁に食わすな」といわれるのは、それが理由だとのことで、まさに「夏の野菜」なのだ。でもほかの栄養は、ビタミンもほとんど含まず、あまりないらしい。
しかし人間は、栄養のみでモノを食うわけではない!
ナスの、あの独特の、やわらかな食べ応えは、ほかにはないものである。しかも塩もみすればさわやかで、皮ごと焼いたり、ゆでたり蒸したりすればふっくらとし、切って焼けばホックリし、油を使えばトロリとする、料理の仕方でいかようにも姿をちがえて見せるさまは、ほかにはなかなかないものだ。
さらに夏のナスが、またウマイのだ。
ナスはハウスで作れるから、スーパーなどでは1年じゅう売っている。しかし夏の、露地で育ったナスと、ハウスのナスは、「天と地」ほどもちがう。
夏のナスは、アクがほとんどなくて甘く、塩もみしただけで、ほかに調味料を何もつかわなくても、死ぬほどうまい。
値段も安いし、夏はせいぜい、ナスを食べる手なのである。
そのナスの、一つの代表料理が「マーボー・ナス」。
それを、もっとも「基本に忠実」と思われるやり方で作ってみた。
ナスにはまず、油が合う。それから、みそが合う。日本なら、みそ田楽がナスの代表料理となるわけで、マーボー・ナスはその「中華版」といえるものだ。
またマーボーは、「中華版そぼろあんかけ」なのだから、和風そぼろあんかけが大根やカブなどによく合うことからもわかる通り、やわらかな野菜をつかうのに向いている。
以上のようにマーボー・ナスは、「ナスの代表料理」と呼ぶのに遜色がないのである。
マーボー・ナスのレシピには、ほとんどが「甜麺醤(テンメンジャン)」を使うことになっている。甜麺醤は、中国では基本調味料の一つとなるようだ。
でも中国と日本では、調味料の体系がちがうから、日本人が甜麺醤など買ってみても、使い方がよくわからず、冷蔵庫の肥やしとなるのは目に見えている。
じつは甜麺醤は、「甘みのある豆みそ」で、これは八丁みそと砂糖またはみりんで、完全に代用できる。みそならば、日本人は、使い方をよく知っている。
八丁みそは、ふつうの麦麹みそとは異なり、煮込んだり炒めたりしても風味が飛ばず、使い出が非常にある。
本物の八丁みそは、水分が少なくて固く、ちょっと使いにくいから、これに麦麹みそを混ぜた「八丁赤だしみそ」が、常備するのに絶対におすすめだ。
それからナスは、マーボー・ナスのよくあるレシピだと、揚げることになっている。
でもこれも、ふつうに炒めるのでまったく問題なくおいしくでき、そのほうがカロリーも少ないし、手間もかからない。
- ナス 2本
はヘタを落とし、3センチくらい、「ちょっと大きすぎるかな」と思うくらいの乱切りにする(火を通すと縮むから)。
フライパンに、
- サラダ油 大さじ1
を入れて中火にかけ、ナスを2~3分、「しんなりし始めたかな」と思うくらいまで炒め、皿にとり出す。
あらためて、フライパンに、
- サラダ油 大さじ1
- 豚ひき肉 100~150グラム
を入れて中火にかけ、肉の水気が完全に飛び、さらに焼色がついてくるまで4~5分、じっくり炒める。
- サラダ油 大さじ1
くらいを足し、
- ニンニク 1かけ (みじん切り)
- 豆板醤 大さじ1
を加えて、今度は弱火で2~3分、ニンニクがきつね色になるまでじっくり熱する。
一旦火を止め、
- 八丁赤だしみそ 大さじ1
- しょうゆ 大さじ1
- 酒 大さじ1
- みりん 大さじ1
- オイスターソース 小さじ1
をよく溶きのばし、弱火にかけて1~2分炒め、肉に味をふくませる。
- 水 1カップ
- とり出しておいたナス
を入れ、中火にかけて、煮立ってきたら弱火にし、5分くらいコトコト煮込む。
- 小口切りにした青ねぎ 1つかみ (=非常にたっぷり)
を入れてひと混ぜし、
- 片栗粉 大さじ1
- 水 大さじ1
の水溶き片栗粉を、混ぜながら少しずつ加えてトロミをつける。
- ゴマ油 小さじ1
- 酢 小さじ1
をたらし、ひと混ぜして火を止める。
皿に盛り、好みで粗挽きコショウをかけ、きのうはここにご飯を添えた。
これがまた、ウマイのだ……。
八丁みそは、マーボー・ナスにはほんとに最高。
トロリとしたナスが味を吸い、これは完全なまでに死ねる。
そしてまたこれが、言うまでもないことだが、酒には死ぬほど合うのである。
これだけ酒に合ってしまえば、酒を飲み過ぎないようにすることは、ほぼ「ムダな努力」といえると思う。
「それはちがうよ。」
そうだよな。