干し椎茸のコクのあるだしで、きちんと下味をつけた豚肉を炒め煮する。焼けた麺にあんが絡むと、ウマすぎて死ぬしかないはず。
何事にもハマりやすい性格で、幾多の失敗をくりかえしてきているわけなのだが、今回もまたハマりまくっている。
みりんと薄口醤油ベースの中華的味つけだ。
元々みりんと薄口醤油の関西風うすあじが好きだった。これを吸物に仕立てて油あげと青菜を煮たのや、豚肉とネギを煮たのなどなどは、「一番の好物」ともいえるくらい。
今回の中華的味つけは、まさにその関西風うすあじの中華版といえるのだ。ただでさえも好きだった味つけが、さらにニンニクを初めとする中華素材のコクによって強化され、もう「たまらない」としか言いようがない。
ほとんど中毒になっていて、ほかの味つけを食べたいと、全くおもわなくなっているのだ。
きのうも豚肉と小松菜の焼きそばにすることに決め、材料を買いそろえてあった。焼きそばには作り方が2種類あり、一つは麺を具材といっしょに炒める普通の焼きそば、それからこんがり焼いた麺にトロミをつけたあんをかける、あんかけ焼きそば。
もちろん、普通の焼きそばのほうが作るのは簡単だ。それで決してまずいわけではないのだから、きのうも作りはじめる直前までは、それで行こうと思っていた。
普通の焼きそばの味つけも、みりんと薄口醤油ベースの中華的味つけでイケるはず。ただ干し椎茸のだしだけ使わなければいいわけだ。
しかしそれを頭で思い浮かべてみたとき、どうしても不満が残った。
「干し椎茸のだしが欲しい、、、」
そうなのだ。おれはこのとき初めて悟った。
おれがこの中華的味つけにハマっているのは、干し椎茸のだしが大きなポイントだったのだ。
干し椎茸のだしは、この手の韓国風や中華風の味つけにとてもよく合う。ニンニクを中心としたクセのある味つけに、また干し椎茸のクセが絶妙と思えるマッチングをし、深いコクをつけてくれる。
なので干し椎茸のだしは、絶対に試してみるべき。中国産だと、日本産の3分の1ほどの値段で買え、しかもこの手の料理に使うのなら、味的にはまったく遜色ない。
椎茸をもどすのにひと手間はかかるけれど、それだって大した手間ではないわけだし、その手間をかけるだけの効果もまちがいなく十分ある。
さてそういうわけで作ることにした、豚肉と小松菜のあんかけ焼きそば。
豚肉は、わりと安く売っているコマ肉を買った。
コマ肉に限らない話なのだが、肉をおいしく料理するには注意すべき点が2つある。
一つはまず、肉は火が通ってしまうと、味が入りにくくなるということ。
これはたとえば、すでに味がついている汁に肉を入れて煮る場合には、問題ない。生の肉が汁に触れ、汁の味が入るからだ。
ところが肉を炒める場合は、火を通す時点では味がない。
これが、普通の焼きそばを作るときのように、直後にしょうゆなど調味料の原液を加えるなら、それでそこそこ味がつく。
ところがあんかけ焼きそばの場合には、肉を炒めたあとはだし汁を加えるわけだから、そこに多少の味をつけても、肉には味が入らない。
味がついた料理のなかで、肉にだけ味がついていないのは、基本的にはブサイクだ。
だからあんかけ焼きそばのときのように炒め煮にする場合には、肉には下味をつけることが必要になってくる。これは一番簡単にやるならば、火を止めたフライパンに肉を広げて入れ、上から塩コショウを振ればいい。
それから注意すべき2つ目は、肉は火を通し過ぎると硬くなってしまうということ。
これは肉のタンパク質が70℃あたりを超えると変性してしまうからで、これをふたたび柔らかくするためには、豚肉なら1~2時間、牛肉だと4~5時間煮ないといけない。
なので薄切り肉をつかってサッと炒める場合には、肉を極力硬くしないよう、火加減に気をつけることが必要だ。
要は温度をできるだけ上げないようにするわけで、なので肉は炒めるのも煮るのも、「弱火」でやるのが一番いい。
また火を通す時間も、できるだけ短くすることが肝心だ。
まあこれだけやれば、薄切り肉をそこそこおいしくするには十分なのだが、きのうはさらに、これをおいしくする方法を知ってしまったわけである。
それは、肉に塩コショウに加えて酒をまぶし、さらに片栗粉を振っておくこと。
これは、ここ何回かやってみて、確信した。フライパンに広げて塩コショウを振るだけより、格段に肉がやわらかいのだ。
まず酒が、肉をやわらかくする効果があるのではないかと思う。塩サバなどでも、酒をまぶしてから焼くと、ふんわりとやわらかくなる。
さらに片栗粉を振ることで、肉の外側がコーティングされ、火がやさしく入るのだろう。
下味をつけるのは、たしかにひと手間かかるから、これを「やれ」とは強制できない。フライパンに広げて塩コショウをふるだけで、あとは火加減に注意すれば十分そこそおいしくなる。
でも上のように下味をつけておくと、安い豚コマ肉が、高級肉かと思うくらい、やわらかく仕上がるのだ。
料理は、ある程度の手間をかけ、ゆっくり作るのも一つのたのしみ。
気が向いたら、やってみるのはとてもとてもオススメだ。
材料は、豚肉と小松菜、それに長ねぎまでが、おいしく作るための最小限。そこにきのうは、コクの干し椎茸と歯ごたえのタケノコが加えてある。
それから焼きそば麺は、袋入りのを買う。
スーパーには、たぶん1袋40円くらいのと、80円くらいのの、2種類が売っているはず。
麺はどういうわけだか、味が値段に比例するのだ。なのでたかが40円の違いなのだから、80円のやつを買うのがおすすめだ。
まずは干し椎茸をもどす。
鍋に、
- 水 1+4分の1カップ (1カップのだしが取れる)
- 干し椎茸(中) 2個
を入れ、フタをして中火にかけ、煮立ったら火を止めてそのまま15分くらい置いておく。
並行して、豚肉に下味もつけておく。
豚コマ肉・100グラムを器に入れ、
- 酒 小さじ1
- 塩 小さじ4分の1
- コショウ 1ふり
をやさしくもみ込み、片栗粉・小さじ1をまぶしつける。
麺を炒める。
フライパンにサラダ油・大さじ1を入れて弱めの中火にかけ、焼きそば麺を入れる。麺が温まってほぐれるようになってきたらフライパン全体に広げ、時々揺すってうごかしながら、じっくり焼く。
こんがりと焼色がついたところでひっくり返し、さらに焼色がつくまで焼き、皿にとり出しておく。(油は落ちてくるから足さなくていい)
フライパンに、
- サラダ油 大さじ1
- ニンニク 1かけ (みじん切り)
- 赤唐辛子 1本 (ヘタを取って種をだし、小さくちぎる)
を入れて弱火にかけ、ニンニクがきつね色になってくるまでじっくり炒める。
つづいて下味をつけた豚コマ肉を入れ、弱火のままじっくり炒める。
豚コマ肉に8割方火が通ったところで、
- 水煮のタケノコ 4分の1個 (3ミリくらいの厚さに切る)
- 戻した干し椎茸 2枚 (汁気を絞って石づきの先を切り落とし、半分にする)
を入れて、さらに1分ほど油がまわるまで弱火で炒める。
中火にし、
- 干し椎茸のだし 1カップ
- 酒 大さじ1
- みりん 小さじ1
- 薄口醤油 大さじ1
- オイスターソース 小さじ1
- 塩 少々
- コショウ 1~2ふり
を味を見ながら入れ、
- 小松菜 2分の1把 (ざく切り)
- 長ねぎ 10センチくらい (斜め切り)
を入れて、煮立ってきたら火を弱め、小松菜がしんなりするまで1~2分煮る。
- 片栗粉 大さじ1+2分の1
- 水 大さじ2
の水溶き片栗粉を、スプーンで加えては混ぜしてトロミをつける。
最後にゴマ油・小さじ1をまわしかけて、火を止める。
焼いた焼きそば麺の上にたっぷりかけ、酢や粗挽きコショウなどで味を変えながら食べる。
これは、マジでたまらないですよ。
豚肉は、ほんとにプリプリ。
コクのあるあんが焼けた麺にからむのは、ウマすぎて死ぬしかないはず。
あとは、わかめスープ。
鍋に、
- 水 2+2分の1カップ
- ニンニク 1かけ (包丁の腹でつぶす)
- 乾燥わかめ 2~3つまみ
を入れて中火にかけ、煮立ったら弱火にして5~10分煮る。
- 酒 大さじ1
- みりん 小さじ1
- 薄口醤油 大さじ1
- 塩 少々
- コショウ 1ふり
で味をつけ、お椀によそって青ねぎとゴマをかける。
酒は、焼酎水わり。
このところ晩に麺を食べるようになって気づいたのは、麺はご飯とはちがってシメにはならず、申し分ない酒の肴になってしまうということだ。
おかげで飲み過ぎに拍車がかかるようになってしまったわけなのだが、焼きそばがここまでうまいと、抵抗することはできないのだ。
「焼きそばのせいにするのはダメだよ。」
そうだよな。