この冬は沖縄でぬくぬくと過ごすはずが、いちばん寒い時期にまさかの東京滞在という事態。毎朝実家ちかくの池に張った氷を靴底で割りながらため息をついているのである。
でも寒い冬も多少はいいことがあるのがわかった。
一刻も早く暖かくなってほしいから、春の食べ物が切ないまでにありがたく思えてくる。
菜の花と、ホタルイカである。
スーパーで見かけて涙がちょちょぎれそうになり、瞬間的にカゴに入れた。
ホタルイカはゆでたやつ。これをやはりサッとゆでた菜の花とからし酢味噌で和えたのは、定番中の定番だ。
しかしそれだと「小鉢の一品」以上にはなり得ない。
スーパーで売られているホタルイカはかなりの量で、一人分の小鉢には量が多すぎ、といって消費期限ギリギリの見切り品を買ったから、2日とか3日に分けて使うわけにもいかない。
それに「小鉢」だと、どうしたって他にも小鉢が必要だ。
そのためにさらに材料を買い込んで、それらの材料も小鉢だからすべて使い切れないとなってしまうと、面倒であるばかりでなく、冷蔵庫が古くなった食材で溢れかえってしまいかねない。
そこで「炒め物」の出番となるわけである。
日本の料理は基本的に油を使わないために、味を重層的に構築することができないのだ。
日本以外のほとんどの国や地域がそうするように、油と水をどちらも使い、それぞれに相性がいい調味料や食材を組み合わせることをしないから、どうしても味が単調になってしまって大皿料理が作れない。
それで小鉢を並べることにより、その単調さをカバーするのだと思う。
なので日本の料理は、一人暮らしには向かないのだ。
菜の花とホタルイカも炒めてしまえば、一品で十分満足できるメイン料理にすることができ、料理の手間を大幅に削減できる。
さてその菜の花とホタルイカの炒め物だが、わたつきのイカはオリーブオイルとにんにく・唐辛子の洋風味で炒めるのが大変うまい。
「塩辛のパスタ」がうまいことからも分かる通りで、ホタルイカも小さいとはいえ、立派にわたがついたイカなのだ。
ここにさらにコク出しとしてバターまたはオイスターソース(今回はオイスターソース)を加え、最後にレモン汁を少々たらす。
すると「辛くて酸っぱくてコクがある」というからし酢味噌とおなじ構成になるわけで、菜の花とホタルイカには完全にゴールデンなのである。
菜の花などの青菜は油だけでは火が通りにくいから、水を使わなくてはいけない。
水と油をどちらも使う場合には、それらが分離しないように「粉」を加えることが必要で、パスタにするなら麺のゆで汁を使うので問題ないが、今回は炒め物だからそれはできない。
そこで味としては洋風なのだが、作り方はちょっと中華風に、最後は水溶き片栗粉でとじる。
今回コクだし成分としてバターではなくオイスターソースを使ったのも、オイスターソースが水に溶けやすく、水にきちんと味をつけられるからで、こと炒め物に関しては、中国はやはり一日の長があると思う。
この料理をつくるコツは、火を通しすぎないこと。
ホタルイカはゆでだからすでに火が通っているし、菜の花もあっという間に火が通る。
菜の花の火の通り具合は春菊とおなじくらいで、火が通り過ぎてクタクタになってしまった菜の花ほど悲しくなるものはない。
「まだちょっと硬いかな」と思うくらいで炒め上げてしまうのがおすすめだ。
- ゆでホタルイカ 100グラムくらい(1パック)
は、洗う必要も目をとる必要もなく、そのままフライパンに入れればいい。
- 菜の花 10本とか
は、たぶん延ばすと10センチくらいになると思うから、それを半分に切っておく。
フライパンに、
- オリーブオイル 大さじ1
- ニンニク 1~2かけ(みじん切り)
- 輪切り赤唐辛子 1つまみ
を入れて中火にかけ、1~2分炒めて味をひき出す。
ホタルイカを加え、「温める」ようなつもりで1分くらいサッと炒めて味をなじませる。
- 酒 大さじ1
- 水 カップ2分の1
- オイスターソース 小さじ1
- 塩 小さじ8分の1程度(ほんの一つまみ)
を入れて、まず菜の花の茎の部分を1分くらい炒め煮する。
つづいて花の部分を入れてさらに1分くらい炒めたら、
- 片栗粉 小さじ1
- 水 小さじ2
をまぜながら少しずつ入れてトロミをつけて、火を止める。
皿に盛り、
- レモン汁(ポッカレモン100)小さじ2
くらいかけて食べる。
これが、マジでうまいのだ。
ホタルイカの強いコクと、苦味のある菜の花が最強に合うのはいうまでもない話。
これがにんにくをベースとした、サッパリとしながらもコクのある味つけによく合って、10,235回くらいは死ねる。
しかもこれが、酒には古今東西、これほどのものはない、というくらい合うのである。
これで「飲みすぎない」と言うのなら、僕はふてくされて早寝してしまうに違いない。
「早寝して」
そうだよな。