沖縄・高江でのヘリパッド建設工事にたいする阻止行動はつづいている。安倍首相はヘリパッドの年内完成を国会で明言、沖縄県警のみならず全国の機動隊を沖縄に投入し、力ずくで工事を進めようとしているから、工事を阻止しようとする側との軋轢も増している。
きのうの阻止行動は、まず「水曜大行動」とよばれる座り込みが、高江訓練場のメインゲート前であった。並行して米軍基地内の工事現場での座り込みがおこなわれ、さらに大行動に参加したメンバーも、やはり米軍基地内の別の工事現場で座り込みをおこなった。
僕は大行動と並行して基地内で座り込むグループに参加、朝7時、総勢30名のメンバーといっしょに山に入った。
普段僕は、「運動」といえば街を30分程度歩くきり。30分くらいの行程の、大した上下もない山道でも、歩くのはとてもキツイ。
直径100メーターくらいのヘリパッド建設現場の、一角にある谷に到着、そこで防衛局員に「速やかに立ち去ってください」との連呼を受けながら、座り込みを開始した。
ヘリパッド予定地内の木々は大半が伐採され、整地が始まろうとしている。あと残されたのはこの谷で、この3日間というもの、プロテスターが谷の下にいるものだから、切られた木が下に落ちてプロテスターを直撃する危険があり、防衛局は伐採を進められずにいた。
座り込みは持久戦だ。僕はおにぎりやらお弁当やらコーヒーやら、リュックにたんまりと入った食料を、腹が減ったらパクついて、食べ終わったら昼寝してとのんびりしながら時間を過ごした。
しかし地元沖縄の人たちは、座り込みの最中は、それとは違った時間の過ごし方をする。近くには防衛局の職員や作業員、警官などがいる。彼らに向かい、コンコンと説教をするのだ。
「あなたたち、自分たちがしていることが、日本を戦争に巻き込み、奈落の底へ突き落とすことに手を貸しているというのがわからないの?」
「仕事だからといって、何をしてもいいわけではないの。もっと、人からきちんと尊敬される仕事をしなさい」
「やんばるの森は、こうして一度木を切ってしまったら乾燥し、死んでしまうの。あなたたち、取り返しがつかないことをしているのが分からないの?」
相手も人間。こちらも人間。ならば話せば分かるはず。
ただぶつかり合うばかりでなく、きちんと理解してもらおうという試みを、根気強くつづけている。
お昼までは、そうして時間が過ぎていったが、午後になって様子は変わった。機動隊が入ってきたのだ。
おびただしい数の機動隊員が谷底へ降りてきて、プロテスターの排除をはじめた。
僕も機動隊員に両手両足を担ぎ上げられ、斜面ではロープにくくられて、工事のじゃまにならない場所に拘束された。
プロテスターが拘束されているあいだ、チェーンソーの音が鳴り響いた。しばらくすると、谷の斜面に残っていた木々は、すべて切り倒されてしまった。
丸裸になってしまった、やんばるの森。
機動隊が立ち去ったあと、そこにすわって、またそこらを歩いて、落胆する沖縄の人たちの様子は、胸が痛んだ。
そう、やんばるの森は、殺されたのだ。しかも殺されたのは、今回が初めてなどではない。
沖縄は、全国で唯一、太平洋戦争時に本土決戦の場とされた。武器を持たない何万という数の民間人が、アメリカ軍に殺された。
それからも、米兵による暴行事件・殺人事件はあとを絶たない。昨年も、元米兵による強姦殺人が起こっている。
そのように、沖縄の人たちは殺されつづけてきているのだ。そしてまたいま、太古からつづくやんばるの森が殺され、失われようとしている。
やがて誰からともなく、重機が1カ所にまとめた樹木を、そこいら中にばら撒きはじめた。
帰り道でも、砂利で整地された道に、道端によけられていた木をばら撒いていく。
これは一つには「嫌がらせ」の意味がある。こうして木々をばら撒いておけば、それを片付けるのに時間がかかり、翌日の作業がすこし遅れる。
でも真剣な顔で熱心に、小柄な女性などでも力をふり絞り、重い木を運んでいくさまを見て、僕は単に嫌がらせだけのことではないのかもしれないと、ちょっと思った。
やんばるの森は、殺されてしまったのだ。
こうして整地されてしまった場所に、木々をふたたびかぶせていくのは、弔いの儀式であるかのようにも思えた。