今年から祇園祭は前祭と後祭に別れることとなり、今週から後祭の宵山、きのうは山鉾巡行も行われたのだけれど、今年は宵山も山鉾巡行も、すでに十分満喫したから、「もういいか」と思って出なかった。
でも24日は、毎年欠かさず見ているものがある。
お神輿だ。
祇園祭というと「山鉾」のイメージがあり、いかにも雅な、はんなりとした様子を思い浮かべる人も多いと思うが、山鉾はあくまで「前哨戦」である。祇園祭の中心は、ご神体を乗せ、街を練り歩くお神輿にあるわけで、これが山鉾とは打って変わって荒々しい。
はっぴにステテコ姿の男たちが、「ほいっとー、ほいっとー」と野太い掛け声をかけ、数年前までは全身刺青の人も少なくなくて、「怖い」イメージすらあった。
今では規制が強化され、刺青の人は見なくなったが、それでもお神輿の男っぽい、荒々しさは変わらない。
お神輿の日には、楽しみにしていることがある。
いつもお世話になっている八百屋のご主人のご厚意で、「みこし弁当」を分けてもらっているのである。
これは非売品で、お神輿を担ぐ男衆、およびその関係者が食べるために作られている。
八百屋のご主人は、後になって知ったのだが、祇園祭お神輿の担ぎ手集団の一つ「三若会」の会長を、代々世襲で受けつぐ家系の生まれで、今も副会長という役職を務めている人なのだ。
朝、ブログを更新する前に、三若会の事務所までみこし弁当を受け取りに行く。
作りたてで、まだほんのりと温かい。
でもこの弁当は、男衆が食べる夕刻に、一番おいしくなるように調整されているそうだ。すぐには食べず、しばらく寝かせておくのである。
ちなみにこのみこし弁当、もちろん保存料などは一切使われていないのに、猛暑の京都で、常温のまま、2~3日は持つのだそうだ。
入れられている梅干しと、包まれている竹の皮の作用だろう、今さらながら、昔の人の知恵はすごいものだなと思う。
さて夜になり、いよいよみこし弁当を食べる時刻と相成った。
ワクワクしながら包みを開ける。
中にあるのは・・・。
ゴマ塩のかけられたご飯に、梅干し、タクワンの、いかにも「日本のお弁当」と言いたくなるシンプルなものである。
まずご飯を一口・・・。
ちょうどいい硬さに炊き上げあれ、さらにこれも、竹の皮の吸湿作用によるものだろう、ほどよく水気が抜けていて、「今まで食べたご飯の中で一番うまい」とすら思う。
梅干しは、やや塩辛めの、昔ながらのもの。タクワンはやや甘め、コリッとした、かなり強めの食べ応えがある。
しみじみとうまい、まさに「極上」といえる味である。
食べ終わり、思わず手を合わせて拝んでしまった。
みこし弁当を食べ終わったところで、お神輿を見に家を出る。
お神輿はいつも、三条会商店街で見ることにしている。
三条会商店街には、八坂神社の又旅社があり、歴史的には、この辺りが祇園祭お神輿の中心地であったらしい。昔は3基あるお神輿のいずれもを、ここを拠点とする三若会が持っていたが、後になり、素戔嗚尊を乗せた中御座だけを三若が担ぐこととして、東御座は四若に、西御座を錦に、分けたと聞いた。
そのため祇園祭のお神輿は、3基の全てが、三条会商店街を通って行く。商店街の狭いところを、目の前をお神輿が通って行くから、すごい迫力なのである。
商店街の先の方から、三若会の中御座神輿がやってくるのが見えてきた。
初めは何も聞こえないが、そのうち「ほいっとー、ほいっとー」という野太い声が聞こえてくる。
八坂神社又旅社の前に到着。
人でごった返している。
そして、担ぎ上げ。お神輿を、全員が肩ではなく、まっすぐ上に伸ばした手で抱えるのである。
「よいっしょー・・・、よいっしょー・・・」の掛け声とともに担ぎ上げられ、さらにそれが、「ほいっとー、ほいっとー」の声とともに思い切り揺すぶられる。
すごい迫力だ。
お祭りはやはり、お神輿が華だなとつくづく思う。
宗教には縁遠いぼくなのだが、この日本の神様は、素直に「いい」と思えるのだ。
三若会の男衆は、又旅社の前にお神輿を据えると、神事のあいだ、休憩をする。
その間、太鼓が叩かれたりするのを眺めて回るのも楽しい。
休憩が終わる頃、八百屋のお店を訪ねる。これもご主人のご厚意で、炊き出しなどをする女衆の打ち上げに、混ぜてもらっているのである。
男衆が食事を終えてお神輿にもどると、改めてテーブルに、心尽くしの色々な料理がならべられる。
それを囲んで、女衆の宴会がはじまる。
もう何度目かなので、ぼくも少し、顔なじみになっている。まだ気を遣うことの方が多いけれど、こうして京都の人たちと、あれこれ話ができるのは楽しい。
料理は、ハモ寿司やら、煮豚やら、ゴーヤの和物やら・・・。
キンキンに冷やされたナスの煮物は、2日前から作り始めるのだそうだ。
さらにここが凄いのは、代々の会長のお宅だから、お神輿が前で止まるのだ。
三若会はもちろんのこと、四若会の東御座神輿も、亡くなった先代会長の遺影の前で、「ほいっとー、ほいっとー」の掛け声とともに、担ぎ上げを繰り広げる。
それを居ながらにして、間近で見ることができるのである。
宴会の終わり際、女性の一人は、
「夏も終わりだね・・・」
ボソリと言う。
さらに別の女性は、
「今年も終わりだね。」
やはりボソリと呟いた。
それを聞き、
「京都の人は、祇園祭を、そこまで楽しみにしているのか・・・」
ぼくは思った。
宴会は、11時近くになり、お開きとなった。
家に帰り、さらに少し飲んでから、布団に入った。
しかし祇園祭は、宵山、山鉾巡行、そしてお神輿と、一通りを満喫できた。
また来年が、楽しみだ。
「よくしてもらってありがたいね。」
ほんとだな。
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