一人鍋といえば、まずはやはり常夜鍋なのである。

豚肉

一人鍋が家族の鍋と違うのは、第一に材料だ。

一人だとどうしても量を食べられないから、家族でやる鍋のように材料をあれやこれやと入れてしまうと、使い切れずに余してしまうことになる。

池波正太郎は、「2品か、せいぜい3品」と書いていて、これは材料を余らせないためだけではなく、それが「粋」だということでもある。

ただぼくは、2~3品ではどうしても物足りないので、不粋を承知で4~5品入れている。

鍋はもちろん、如何様にも、自分が好きな通りにやればいいのである。

 

それから家族の鍋の場合だと、家族みんなで食べるから、鍋には材料を一杯に入れることになる。

それはそれで、豪華な感じがしていいものなのだが、鍋は煮えばながうまいから、一人鍋の場合には、1回で食べられる量ずつを煮るのがコツとなる。

「1回に食べられる量」とは、小皿に一度に入る量のことだから、材料を煮るのは、本当に少しずつということになる。
一人鍋は人を気にせず、自分のペースでやれるから、それが可能だということだ。

ただこれもぼくは、あまり何度も煮ていると慌ただしくなるから、2~3回小皿に取る量くらいを煮て、煮えたらすぐに火を止めてしまうことにしている。

 

「常夜鍋」は、一人鍋の代表とも言える存在で、一人鍋で名前が付いているのはこれだけなのではないだろうか。

一人鍋はお店でやることはあまりないから、お店のメニューに出されているのを見たことはないけれど、池波正太郎はもちろん、向田邦子も、常夜鍋は好物だったと言われている。

ほうれん草と豚肉の2品が基本で、これをしょうゆか、ポン酢しょうゆのタレで食べる。

簡単でおいしく、しかも栄養満点だから、一人鍋には打ってつけというわけだ。

 

「常夜鍋」の名前は、Wikipediaによれば
「毎晩食べても飽きないから」
とされていて、これがネット上では、公式見解となっているようだ。

また起源については、Wikipediaでは「よく分かっていない」とされていて、
「一説として旧制高校の寮生がはじめた」
となっている。

ただ実際には常夜鍋は、北大路魯山人が日本に紹介したものだ。
魯山人は「宵夜鍋」と表記していて、「中国から伝わった」と書いているが、「宵」と「常」は字が似ているから、これが「常夜鍋」と誤って広まったのだと思う。

ぼくのブログにコメントをくれた香港在住の人によれば、「宵夜」は中国語で「夜食」の意味で、宵夜鍋は、
「夜食にぴったりの、簡単でお腹に負担がかからない鍋物」
の意味だろうと言っている。

実際香港では、鍋も含め、汁麺やお粥など、夜食を出す専門店があれこれとあるのだそうだ。

 

さてその常夜鍋だが、ほうれん草は、下茹でしておく必要がある。

ほうれん草はアクが出るので、そのまま鍋に入れてしまうと、汁がまったく使い物にならなくなる。

ほうれん草を茹でる時には、面倒でも一把ずつ、水が沸騰した状態を保つようにしながらやると、スッキリとした味になり、格段においしくなる。

水が70度くらいになると、苦味が出てしまうのだそうだ。

まず茎のところだけ10秒、つづいて葉も水に浸して10秒茹でる。

常夜鍋の作り方(1)

水は、塩を入れるとアクが出にくくなってしまうから、真水でいい。

湯から上げたら、すぐに冷水に取って冷やす。

常夜鍋の作り方(2)

よく絞り、食べやすい大きさに切っておく。

 

常夜鍋に入れる材料を、ほうれん草と豚肉の他に追加しようと思う場合、ほうれん草は他の野菜との相性が悪いから、よくよく吟味する必要がある。

常夜鍋の作り方(3)

白菜や長ねぎ、玉ねぎなど、鍋の定番材料は、ほうれん草には合わないというのがぼくの意見だ。

ぼくが常夜鍋に入れておいしいと思えるのは、シメジなどのきのこと油揚げだけで、豆腐もあまり合わないと思う。

麺はもちろん入れたらよく、うどんもいいが、中華麺でもなかなかうまい。

豚肉は、コマ肉やバラ肉など、脂身が多いものの方がうまいと思う。

どういうわけか、スーパーより肉屋で買ったほうが、値段も安くて味もいい。

 

鍋にだし昆布を敷き、水を張って日本酒をたっぷり入れる。

常夜鍋の作り方(4)

池波正太郎は、水と日本酒の割合を7対3としているが、もちろんのことそんなのは計らなくていいに決まっている。

まずほうれん草以外の材料を入れ、豚肉の色が変わったらほうれん草を入れて、火を止める。

常夜鍋

ほうれん草にはもう火が通っているし、他に火が通りにくいものもないから、煮過ぎないのがポイントだ。

 

器に取り、ポン酢しょうゆと一味で食べる。

常夜鍋

大根おろしも、ほうれん草には合わないから、入れないほうがいい。

 

酒は日本酒。

日本酒 常温

ぼくは真冬以外は常温で飲む。

 

ほうれん草を下茹ですれば、残り汁はもちろんのこと雑炊に使える。

常夜鍋 雑炊

これは今日になって食べたものだが、塩とおろしショウガで味をつけ、青ねぎと一味を振り、ポン酢しょうゆをチロリとたらした。

 

「おっさんは鍋にこだわりが多いんだね。」

チェブラーシカのチェブ夫

ちょっとうるさ過ぎたかな。








コメント

  1. ニモ より:

    今までなんとも思わずにほうれん草をそのままお鍋に入れていました。そのまま入れると、そのおつゆもだめになるんですね。
    知ってるつもりでも、知らない事がまだまだありますね。

  2. hamo より:

    鍋のウンチクいいですね^^
    ニモさんと同じで自分もほうれん草をそのままいれてました。
    たしかにアクが出ておいしくない気がしていました。
    まったく使い物にならないといっておられるアクのある汁で〆に麺
    をいれて食べてました。もう少し、食にこだわらないと・・・反省。

    料理はひと手間が大事ですね。
    茹で方の知識も勉強になりました。
    具材もあるものを考えずに鍋に投入してしまいますが、
    具材同士の相性にも今後気にして作ってみようと思います。

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