チェブ夫は、酒が飲みたい気分だった。
何しろ同居人が、酒ばかり飲んでいる。ならば自分にも飲ませてくれれば良さそうなものなのに、いつも一人で酔っ払って、挨拶もせずに寝てしまう。
「僕だって、酒が飲みたいことくらいあるさ」
いつもそう思っていた。
ところがある晩、同居人は泊まりがけで出かけていった。
「お前は家でお留守番だよ」
そう言い残し、頭をなでてはくれたものの、どうせ自分のことなど忘れ、旅先で酔いつぶれるに決っている。
「バカヤロウ、僕のことも、少しは考えてみろってもんだ」
そう思うと、ムシャクシャした気持ちはおさまらない。
そこで家をぬけ出し、近所の四条大宮へ飲みに出かけたわけである。
まず行ったのは、たこ焼き「壺味」だ。
「四条大宮は、やっぱりここがヘソだよな」
チェブ夫はつねづね、「ここで一人で飲んでみたい」と思っていた。
酒はもちろん、レモンサワーだ。
頼んだつまみは、まずは「たこキュウ」。
「たこがやわらかくて、うめ~な~。味も酸っぱすぎないし、ゴマの風味もきいている」
それから、山芋素揚げ。
「ポテトみたいにサクサクだ!」
豚肉の鉄板焼き。
どんなものかと思ったら、こんがり焼いた豚肉を、コチュジャンとキムチを加え、サンチュで巻いて食べるものだった。
「これはやっぱり王道だな」
豚肉がまた上等で、焼いてもまったく硬くない。
それから、そら豆の鉄板焼き。
チェブ夫はそれまで、そら豆をサヤごと網で焼いたのは見たことがあった。しかしこれは、サヤから豆をとり出して、それを塩だけふって焼いたものだ。
「こんなの、初めてだ……」
食べてみる。
「なんだこれ、ウマイじゃないか!!!」
鉄板でじっくりと焼いたそら豆は、ほっくりと香ばしく、さらに豆を覆っているうす皮も、おいしい食べ応えになっている。
チェブ夫は大将に話しかけた。
「タカヤスさん、さすがだわ。こんなの僕は、これまで思い付かなかったよ」
大将は、笑って答える。
「ありがとうございます。私は新メニューを考えるの、好きなんですよ」
チェブ夫は満足して、壺味を出た。
チェブ夫が次に向かった先は、立ち飲み「てら」だ。
酒は、シークワーサー・ハイを注文した。
「てらで食べるなら、やっぱりまずは鳥刺しだよな」
てらの鳥刺しは、厳選した鶏農家からていねいに下処理したのを仕入れていて、遠くから、わざわざこれを食べに来る人がいるほど評判がいいことくらい、チェブ夫だって知っている。
しばし待ち、出てきたのを早速食べる。
「お~、臭みがまったくなくて、さすがウマイな。また肉が、コリコリしすぎず、適度にやわらかいのもいい」
てらを出て、次に出かけたのは、イタリアン・バルの「ピッコロ・ジャルディーノ」。
カウンター席に、ふなっしーがいたのである。
「ふなっしー、お前は放置されていないのかい?」
「ちょっと放置ぎみだよね。しかもお客さんに手荒にされて、疲れるよ」
ふなっしーは、愚痴をこぼした。
「やっぱりな……」
赤ワインを飲みながら、チェブ夫はふなっしーを抱きかかえてやったのだった。
スピナーズを経由して……、
最後に壺味へもどってみた。すると、かわいいギャルが、2人もやって来たのである。
「うわ~、かわいくてタマンネ」
チェブ夫は、じつは女好きだ。ギャルズにお酒をおごり、ほっぺたにキスをする。
「や~だ~、チェブ夫くんったら、もう……」
と言いつつも、ギャルは嫌がる気配はない。
「ぬいぐるみの特権だな」
チェブ夫は心のなかで、「イヒヒ」と笑った。
チェブ夫は5軒をはしごして、満ち足りた気持ちで家に帰った。
「やっぱ、四条大宮はいいな。楽しいわ」
帰るととたんに眠くなり、泥のように眠ってしまった。
翌日になり、同居人が帰ってきても、気が付かなかったほどである。
「勝手なことを書かないで。」
そうだよな。