急がなくていいのである。(鯛の昆布じめ)

鯛の昆布じめ

 
昼は立飲み屋の取材協力でたらふく飲み、帰ってさらに鯛の昆布じめで晩酌した。

鯛の昆布じめ

急がなくていいのである。

 

 

地方都市の生活をはじめて体験したのは、四十すぎで名古屋に転勤したときである。

東京で育ったぼくがまずびっくりしたのは、街を歩いていて通行人と目が合うことだった。

若い女性などでも、すれ違いざまにこちらをチラ見する。

東京の街で女性と目が合うことなど全くないことだったから、自分が急にモテるようになったのかと勘違いしたほどだ。

 

東京では街に人が多すぎて、人の一人ひとりを見てしまうと歩けない。

通行人を「流れ」ととらえ、そこをすり抜けるように歩かないとぶつかってしまうのだ。

さらに東京にいたときは、女性がこちらを見ないのはもちろん、自分も女性をチラ見するのが何だかいけないことのような気がしていた。

見てしまうと「負け」のようにすら思っていたのである。

 

でも考えてみたら、他人に興味をもつのは人間として当然のことだろう。

地方都市では、それがまだ当たり前に存在している。

 

名古屋では、エレベーターでもびっくりすることが多かった。

まず階数ボタンの前にたった人が、他の人が降りるまで「開く」ボタンを押しつづけ、自分は最後に降りる。

これはエレベーターに乗るたびに、ほぼ全ての人がそうしていた。

またエレベーターを先に降りる人が、「閉まる」ボタンを押してからドアを出るのもよく見かけた。

エレベーターに乗り合わせるのは赤の他人になるわけだが、そういう人とのあいだでも、「やり取り」が日常的にあるのである。

さらに名古屋の地下鉄などでは、年配の女性に家族のように話しかけられることが度々あり、これは東京ではまったくあり得ないことだから、本当にびっくりした。

 

おととい飲んだ友人も、京都へ来てぼくといっしょに短い時間行動し、あれこれと驚いていた。

まず四条大宮の街を歩くと、ガラス張りなどになっている店に知り合いの店主やお客さんが見えると、ぼくは当然のように手をふって挨拶する。

それを、

「街で人と挨拶するなど信じられない」

と言うのである。

知り合いに挨拶して何がおかしいのか、地方暮らしが長くなっているぼくにはすでにわからなくなっているが、東京ではそれだけ、他人に関心を持たないようになっているということだろう。

 

それからバーへ行き、若いマスターの仕事ぶりにも驚いていた。

「こんなにたくさんお客さんがいるのに、ああしてゆったりと動くのはすごい」

と言うのである。

東京では、バーなどの店員はもっとせかせかと、気ぜわしく動くのだそうだ。

気ぜわしいからゆっくりと寛げず、長居できる雰囲気はない。

「逆にそのほうがお客さんの回転が上がって、店にとってもいいのかもしれないけどね」

友人は苦笑する。

 

地方都市の人がゆっくりとしていることは、ぼくも地方都市で暮らすようになってはじめに感じたことの一つだ。

久しぶりに東京へもどると歩く速度が遅くなっていて、通行人全員に追い越されることになる。

交差点の横断歩道でも、びっくりしたことがあった。

前方の歩行者用信号が「点滅をはじめそうだ」と見ると、渡るのをあきらめ止まったり、横の横断歩道を渡ることに方針を変えたりする人を何度もみかけた。

ぼくなら小走りになって、あくまで前方の横断歩道を渡りきるところだったのである。

 

仕事においては、「お客さんを待たせるのはよくない」という考え方もあるだろう。

東京でバーの店員が気ぜわしく動くのは、お客さんを待たせないためにちがいない。

でもそうしてしまうと、お客さんとの関係はなかなか出来てこないのではないか。

関係は、ゆっくりと時間をかけて育まれるものである。

 

はやる気持ちをまずは抑え、自分のペースで動いてみる。

そのことで、見えてくることもあるのではないかとぼくは思う。

 

さてきのうは午後、先週に引きつづき、雑誌の取材に協力した。

雑誌の取材に協力した

立ち飲み屋を2軒まわり、うまそうに酒を飲む役回りである。

昼から酎ハイを3~4杯。

雑誌の取材に協力した

さらに日本酒を3~4杯。

フルに酔っぱらって家に帰った。

 

もうそのまま寝ても悪くないところだったが、昼から飲んでいたからまだ時間は早い。

さらに酒の肴をいくつか仕込んであったのである。

鯛の昆布じめ

それでそれらを肴に、あと一杯飲むことにした。

 

仕込んであったのは、まずは鯛。

鯛の昆布じめ

30センチほどもあろうかというものを、「お下がり」としてもらっていた。

魚屋でさばいてもらい、小分けにして冷凍したが、生で食べられるものだったから、2切れだけは昆布じめにしてあった。

鯛の昆布じめ

昆布じめは、刺身用の切り身を昆布ではさみ、ペーパータオルとラップで包んで一晩おく。

 

昆布によって水気が吸われ、さらにうまみが付く。

鯛の昆布じめ

鯛は生もうまいが、昆布じめはまたうまい。

 

それから若竹煮。

若竹煮

保存してあったタケノコを、前日に煮ておいた。

 

昆布と削りぶしのだし2カップに、うすくち醤油大さじ2、みりん大さじ1で味をつけ、1センチ厚さくらいに切ったタケノコを煮る。

若竹煮

10分弱火で煮たら、火を止めて冷やし、味をしみさせる。

食べるときに温めなおし、生わかめを加えてサッと煮る。

木の芽を添えると料亭の味になる。

 

あとはとろろ昆布の吸物。

とろろ昆布の吸物

 

一味とポン酢の冷奴。

一味とポン酢の冷奴

 

すぐき。

すぐき

 
 

酒はぬる燗。

酒はぬる燗

飲みつづけだったから、本当に一杯だけにした。

 

「しかし毎日よくも飲んだね。」

チェブラーシカのチェブ夫

さすがに飲み過ぎだったよな。

 

 

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コメント

  1. 匿名 より:

    私は田舎に住んでいるので、東京の他人に関心を持たない生活にちょっとあごがれたりしますよ♪

    • 高野 俊一 より:

      2~3年経験してみることは、悪くないとは思いますがね(^o^)

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