【四条大宮 来夢来人 3】そしてまた、誰もいなくなってしまった。

2016/07/20

【四条大宮 来夢来人 3】大宮の男たちが南果歩に話しかけた。」のつづき

近藤真彦似の男性は、南果歩似の女性のほうへ、両手をポケットにつっ込んで肩を怒らせ、ゆっくりと歩いていく。南果歩を取りかこんでいた男たちと僕は、一瞬身がまえた。

すると南果歩がうしろを振りかえり、ちょっと責めるような口調で言った。

「あら、あなた、ずっと黙って座っていたのに、いま頃になってこちらへ来るのね?」

まるで、以前からの知り合いのような口ぶりだ。

 

「そんなにみんなから話しかけられたら、疲れちゃいますよねえ?」

近藤真彦は、あごをしゃくるようにして肯きながら、さっき僕が言ったのと全くおなじことを言う。ところが南果歩の反応は、さっきとは全くちがった。

「そうなのよ。こうやって取りかこまれると、尋問でも受けてるような気になるわよね」

近藤真彦似の男性はニヤッと笑い、

「そしたらおれと二人で、飲み直しにいきますか?」

と言う。南果歩似の女性は、

「そうね。そうしましょうか?私もパッと飲みたいわ」

と応ずる。

そして南果歩は、カウンターに置いていた本を小脇にかかえ、近藤真彦が差しだす手をニコッと微笑んで握りかえし、二人は来夢来人を出ていった。





 

「かないっこない……」

近藤真彦と南果歩が、階段を上がっていく足音を聞きながら、僕は思った。

南果歩は、まるで魔法にかかったかのようだった。近藤真彦とのあいだにある心の壁が、はじめからまったく取り払われていて、近藤真彦は何の苦労をすることもなく、南果歩を連れ出していくことができた。

「あれはたしかに、伝説のナンパ師の生まれ変わりにちがいない」

そう悟ると、体中の力がぬけていくようだった。

 

南果歩を取りかこんでいた大宮の男性たちも、おなじように思ったようだ。

「お勘定をお願いします……」

マスターに力なくそう言って、お勘定を済ませると、無言のまま、ゾロゾロと出ていった。

 

僕もお勘定を済ませて、店をでた。すると外は、どしゃ降りだった。

叩きつけるような雨に打たれて、僕は歩いた。自分がどこへ向かっているかも、わからなくなっていた。

涙がとめどもなく流れ出てきた。これまで何人の女性との出会いのチャンスを、近藤真彦似の男性にうばい去れれてきたことか……。

 

気づいたら、僕は川べりに立っていた。どしゃ降りの雨のなか、僕の体は、上から下までぐっしょりと濡れていた。

広い川。向こう岸が見えないくらい、大きな川だ。

僕はジャブジャブと、川の中に入っていく。水かさが、膝から腰、さらに胸へと、急速に増していく……。

 

その瞬間、僕は深みに足を取られた。頭の上まで水につかり、さらに下へと引き込まれていった。

意識がだんだん薄れていく。

薄れていく意識のなか、粗末な白い着物をきた、団子っ鼻で丸顔の初老の男の姿がうかび、

「お前は、おれ。おれは、お前……」

と、つぶやく声が聞こえてきた。

(つづく)










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