【四条大宮 来夢来人 3】戦いの火ぶたは切って落とされた。

2016/07/20

【四条大宮 来夢来人 2】ナンパ師対決が開始されることになった。」からのつづき

僕は翌日も、四条大宮のバー「来夢来人」へ出かけていった。階段を降り、厚い木の扉をあけると、いつものように藤竜也似のマスターが、カウンターの中で一人グラスを拭いていて、ほかにお客さんはいなかった。

カウンターの、入り口にいちばん近い、端っこの席にすわり、ハーパーの水割りを注文する。出されたお酒を一口飲み、僕は生き返った心地がする……。

それは、いつもと何も変わらない光景のように思われた。

 




 

しかし言うまでもなくそれは、ただ表面上のことにすぎなかった。戦いの火ぶたは、切って落とされてしまっているのだ。

マスターは、努めて冷静を装いながら、こう言った。

「大宮のマドンナが、落とされてしまったそうです……」

 

「えっ、あの人が?」

僕は、思わず息をのんだ。

「マドンナ」といわれているのは、前田美波里似の女性のことだ。スラっと背が高い、ショートヘアのきれいな人で、いつも一人で大宮へやってきては、いくつもの店をハシゴしながら酒を飲む。

酒がめっぽう強く、どんなに飲まされたところで、潰されることはない。これまで何人もの男が挑んでいたが、すべて袖にされていた。

「あの人が落とされてしまうなんて……」

僕は何だか、自分の大切なものを奪い取られてしまったような、むしゃくしゃとした悲しい気持ちになった。

 

「どんな様子だったんですか?」

「表通りのお好み焼で彼女が飲んでいるところへ、近藤真彦似の男性があらわれて、例の調子で隣りに座ったのだそうです。それから彼女が連れ出されるまで、やはりものの10分もかからなかったとのことです」

マスターは話しながらも、グラスを白い布でていねいに拭いている。冷静さを装ってはいるものの、額には深いシワがきざまれ、マスターを襲っている心労が並大抵のものではないことがわかる。

 

「こんにちは!」

そのとき、明るい女性の声がした。入り口をふり返ると、ふんわりとした茶色い髪を長くのばした、三浦理恵子にちょっと似た女性が、少しあけた扉のすきまから顔をのぞかせていた。

「いいですか?」

「どうぞ。いらっしゃいませ」

ピンクやらオレンジやら、水色やら緑やらの大きめの柄があしらわれた、光沢のある薄い布地のワンピースを着て、黒いベルトに白いサンダルをはいた三浦理恵子似の女性は、赤いハンドバッグを持ち、長い髪をなびかせながら、店の中に入ってきた。

僕を見て一礼すると、僕からは少し離れた、カウンターのまん中あたりの席に座った。

 

マスターからおしぼりとメニューを受け取り、

「何にしようかな……」

しばらくのあいだメニューを見ながら考えると、モヒートをたのんだ。

出てきたモヒートを一口飲み、

「あ、これ甘すぎなくておいしいですね!」

と言ってもう一口飲んで、グラスを置いた。

 

ふつうなら、様子を見て女性に話しかけるところだ。お酒を一杯おごるのもいい。

でも僕は、何だかいやな予感がし、胸騒ぎがしてたまらなかった。

その予感が的中していることは、すぐにわかった。

(つづく)










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