【四条大宮 来夢来人 2】ナンパ師対決が開始されることになった。

2016/07/20

「これまで弥助の生まれ変わりが幾度となくあわられたなかで、一度だけ、被害がほとんど出なかったことがあると言われています。それは300年くらい前、8代将軍・吉宗の時代のことでした」

藤竜也似のマスターは、自分のためにウイスキーの水割りを作ってから、話しはじめた。

 




 

「喜平という名前でしたが、その男が弥助の生まれ変わりだとわかったのは、一つはその年が、弥助が生まれ変わるとされている年だったこと。それからもう一つは、喜平が実際に、女性に声をかけはじめたからです」

「それなのに、被害が出なかったわけですか?」

「はい。喜平に声をかけられても、女性はなびくことがなかったそうです」

「それはなぜ……」

「真相は、はっきりとはわかりません」

マスターは、作った水割りを一気に飲み干し、目をしばらくつぶってまた開き、さらにつづけた。





 

「当時このあたりには、鼻つまみ者の男がいました。名前はたつ吉といいました。たつ吉はいわばナンパ師で、このあたりの女に声をかけては、良からぬことをしていたようです。

ただしたつ吉は、弥助とはちがって、手当たり次第に声をかけることはなかったようです。いちおう自分なりに、「声をかけても大丈夫」とみなす女を選んでいたわけですね。

それでたつ吉は、周囲のひんしゅくは買いながらも、村を追い出されたり、弥助のように火炙りにされたりということはありませんでした。

弥助の生まれ変わり・喜平がこの村にあらわれて、おなじナンパ師として、たつ吉は「負けてはいられぬ」と思ったようです。喜平が女に声をかける、その横からおなじ女に声をかけ、ナンパ勝負を挑んだそうです。

たつ吉のナンパの腕は、かなりのものだったとのことで、喜平が声をかける女を、そのたびに自分のものにすることに成功し、その結果、喜平に女がさらわれることはなかった、ということのようです」

 

マスターは、空になっていた自分のグラスと、やはり空になっていた僕のグラスにウイスキーの水割りを作り、自分と、そして僕の前においた。僕は作ってもらった水割りを一口飲んだ。

「ナンパ師対決に勝利した、というわけですか……」

「はい、そういうことになりますね。それ以来、ここ大宮では、男たちは平素からナンパの腕に磨きをかけ、弥助が生まれ変わるのに備えるようになりました。

しかし弥助ほどのナンパの腕を、誰もが身につけられるわけではありません。なのでそれ以降は、ナンパ勝負を挑んでみても負けつづけ、被害を食い止められたことは一度もありません」

 

マスターは悲しそうに下を向き、ウイスキーの水割りをふたたび一気に飲み干した。

「それでは今回、弥助の被害を食い止めることができるかどうかは、ひとえに弥助を上回るナパの腕の持ち主が現れるかどうかにかかっているというわけですか?」

僕もウイスキーをもう一口飲んで尋ねた。

「そういうことになりますね。すでに大宮の男たちは、臨戦態勢に入っています。

高野さんも、ぜひ頑張ってくださいよ。もっとも、これまで2回の様子をみると、ちょっと無理かもしれませんが」

マスターは、力なく苦笑した。

 

「ナンパ師対決、か……」

僕は、ウイスキーを飲みながら考えた。

「でも僕のナンパの腕など、ミジンコよりも小さいくらいだ。力になることはできないな……」

 

ウイスキーを飲み終わって店を出ると、オレンジ色の大きな三日月が、屋根のむこうに低く出ていた。

その無気味さは、これからはじまる戦いの激烈さを告げているように思われた。










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