【四条大宮 来夢来人】そして誰もいなくなった。
2016/06/16
「【四条大宮 来夢来人】ツマミをたのんだ。」のつづき
そのとき店のドアが開き、新しいお客が入ってきた。男性だ。
年齢はたぶん僕より若く、近藤真彦にちょっと似た、不良っぽい二枚目だ。ドアから顔を覗かせて、
「いいっすか?」
と聞いていたから、たぶん僕と同様、初めてのお客さんなのだろう。それなのに、店の中までズカズカと無遠慮な様子で入ってきて、工藤静香似の女性を見つけると、
「すんげえカワイイっすね。隣りに座ってもいいすか?」
と言うなり、返事もきかずに隣りに座った。
「マスター、おれハーパーの水割りで」
近藤真彦似の男性はマスターに酒を注文し、工藤静香がグラスの酒を飲み終わっているのを目ざとく見つけ、
「あ、もう酒が入っていないじゃないすか。おごりますんで、好きなの何でも飲んでくださいよ」
工藤静香に酒をすすめた。
僕はぜったい、近藤真彦似の男性は、工藤静香に嫌われるはずだと思った。京都の女性が、こんな無遠慮なふるまいを許すはずがないからだ。
ところが工藤静香似の女性、まんざらでもない様子なのである。
「え?おごってくれるの?」
ニコリとし、
「じゃあ、ジン・ライムで」
マスターに注文した。
工藤静香はおごられた酒が出てくると近藤真彦と乾杯し、二人の話がはじまった。
「名前は何ていうの?」
「まゆみです」
「まゆみ、いい名前だね~。おれのことはマッチって呼んでくれていいから」
「マッチ、あ~、そういえばちょっと似てるかも~」
会話は盛り上がっているようである。
二人はもう一杯ずつお酒をたのみ、さらに親密さを増したようだ。ものの30分もしないうちに、二人して手をつなぎながら店を出ていった。
近藤真彦が工藤静香と手をつなぐとき、僕をみて「ニヤッ」と笑ったような気がした。
僕は呆然とし、ふたたびしんと静まり返った店のなか、水割りをもう一杯注文した。でもその水割りは、すでにあまり味がしなかった。
お勘定をし、店を出る。暗い夜道に、カラスが「カー、カー」と鳴いている。
僕にはそれが、「バカー、バカー」と言われているように思えた。
「ドンマイ、ドンマイ」
そうだよな。
(完)