【四条大宮 来夢来人】ツマミをたのんだ。

2016/06/16

【四条大宮 来夢来人】お店に入って、ビールをたのんだ。」からのつづき

僕は藤竜也似のマスターと話しながらも、カウンターの反対側の端に座っている女性が気になって仕方がなかった。何しろすごい美人だったからだ。

細くてすらっと背が高く、長くてふんわりとし、ほどほどに茶色い髪。黒目がちの、ウルウルと涙ぐんでいるかのような目をしていて、ちょっと工藤静香に似ていると僕は思った。

チョコレート色で光沢のある布地の、前をボタンで止めるタイプのワンピースを、細くて白いベルトをして着、赤いハイヒールを履いている。四条大宮ではあまり見かけることがない、派手めの格好をした女性。

僕が来るまでは、マスターと二人で話していたのだろう。でもいまは、カウンターに両肘をつきながら、透明の酒と氷がはいった背の高いグラスをひとりで傾けていた。





 

その女性に話しかけてみたいと、もちろん思った。でも京都では、バーで人に話しかけるタイミングがむずかしい。「空気」と「距離」を読まなければいけないからだ。

京都のバーのカウンターでは、東京のバーのように、マスターやバーテンが気をきかせて、お客さんどうしの話の橋渡しをしてくれることは、あまりない。カウンターのお客さんどうしが話すのは基本的に自由であり、どのお客さんと何の話をするかについては、あくまでお客が自分で考える領域だ。

ところがそこで、空気と距離を読みちがえ、こちらを「赤の他人」と思っている人にたいし、その人が興味がない話題を振ってしまうと、最悪の場合、完全に無視されることもある。特に常連のお客さんにたいしては、こちらも何度か通いながら徐々に顔を覚えてもらい、距離をちぢめる必要がある。

そう考えると、工藤静香似の女性にたいし、いきなり話しかけるのは、得策ではないように思われた。

 

そこで僕は、女性に話しかけることを考えるのをやめて、ツマミを注文してみることにした。壁に小さな黒板がかかっていて、「本日のおつまみ」とあり、メニューがいくつか書いてある。

「辛子明太子をください」

いちばん上のを頼んでみた。

辛子明太子

 

添えられているレモンをしぼり、ひと口食べて、僕はうなった。

「お~、これウマイっすね!」

辛すぎもせず、塩気も強すぎず、しかも添加物もあまり入れられていないようで、生っぽい、みずみずしい味がする。レモンの酸味が、またその味を引き立てる。

 

すると藤竜也似のマスター、ニコリと笑い、

「福岡の知り合いから直送してもらっているんですよ。これは、他ではなかなか食べられないです」

とのこと。

この店は、酒だけでなく、ツマミもなかなか凝っているようだ。

 

その頃にはたのんだビールは飲み干してしまったから、ウイスキーをたのむことにした。

「ハーパーの水割りください」

僕はウイスキーの銘柄をえらぶ趣味はなく、何十本のウイスキーが置いてあっても、これしかたのまないのだ。

「マスターも、何か飲みますか?」

「ありがとうございます。それではいただきます」

マスターは僕のハーパー水割りをつくり、それから自分の酒をつくり、僕と乾杯した。

 

本当は、工藤静香似の女性にも、お酒をおごろうかと一瞬考えた。チラリと見ると、いま飲んでいるグラスはそろそろ飲み終わりそうだったからだ。

でも考えた末に、それはやめた。

工藤静香似の女性と僕は、まだひとことも話していない。それなのにお酒をおごるなど、差し出がましいのではないかと思ったからだ。

(つづく)





 




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