【登戸駅前】一角だけ残った昔ながらの飲み屋街

登戸駅前 その他の飲食店

登戸駅前

きのうは、登戸で飲んだ。再開発があり、以前とは見違えるほどきれいに整理されたのだが、幸いにも、昔ながらの気概が残る、いい街だった。

 

 

酒を飲むのが人生でいちばん大事だというのだから、あきれたおれだ。

仕事は、ほどほどに留めておく。しかし酒については、超真剣に考える。

おかげで仕事の時間が圧迫されて、カネにはいつも困っているのは、自業自得というものである。

 

いまは東京に来ているから、酒は飲み屋で飲むしかない。だとしたら、できるだけ小ぎれいではなくガチャガチャした、しかも小さな店がいいと思ってしまうのは、古い人間だからだと思う。

「小ぎれいではない小さな店」が意味するのは、「固定費にお金がかかっていない」ということだ。なので店主は、それほど売上を上げなくてもよく、わりと気楽に商売できることになる。

すると商売よりも、店主の「好き嫌い」がより幅を利かせるわけで、お客さんも、店主の個性に合った人が常連さんになっていく。

そこで生み出されていく世界は、「利益」や「効率」とはまったく別の軸にあるもので、その世界を味わうことこそ、飲み屋で飲む醍醐味だとおもっている。

 

こういう古い人間は、そろそろ天然記念物の殿堂入りをするのではないだろうか。

いまの若い人は酒自体を飲むことが減っていると思うから、やがて消え去る運命なのは、自覚している。

 

さてそういう小ぎれいではなく、ガチャガチャとした小さな店が軒をならべている場所は、小田急線のちょっと奥だと、町田に次いで、「登戸」だと思われた。

登戸で、飲んだことは、これまでない。でも通るたびに、小田急線の駅からJR南武線の駅にむかう道筋など、ひどくガチャガチャしていた記憶がある。

 

それできのうは、用事を終えて、登戸の駅に降り立った。ところがそこで見たものは、、

登戸駅前

記憶とはまったく異なる、近代的なステーション。

どうもしばらく以前に、再開発があったようだ。駅のまわりは、きれいサッパリ整理されてしまっている。

 

ちょっとガッカリはしたものの、それでも近代的な駅舎のむかいに、近代から完全に取り残されたといった風情のおでん屋があったので、入ってみることにした。

登戸駅前

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「あまり小ぎれいではないおでん屋」は、飲み屋としては、王道だ。

 

入ると、年配の、いかにも「おかあさん」と呼ぶのがふさわしそうな女将さんと、50代くらいの常連さんらしき男性ひとり。

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とりあえず、ビールを注文。

 

アテは、まぐろぶつ切り。

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中トロに近い部分で、なかなかウマイ。

 

女将さんと常連さんの話が途切れるのを待って、

「久しぶりに来たんですが、このあたり、前はもっとガシャガシャしてましたよね?」

と、聞いてみた。それで、「再開発があった」と教えてもらった。

 

ところがなぜか、この居酒屋がある一角だけが、再開発から取り残されたのだそうだ。

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この一角は、いまだに下水も整備されていないのだとか。ぼっとん便所のままなのだ。

 

近代的な駅の向かいに、こんな下水も整備されていない、前近代的な場所が隣接しているのは、信じられない。どうしてそんなことが起こるのか、根掘り葉掘りきいてみると、

「お役所が決めたことだから、ちゃんとしたことは分からないんだけどね、、」

そう言いながら、要はこの一角の地権者が、お役所に、あまりあれこれ求めないみたいだと教えてくれた。

 

普通なら、お役所に少しでも利便を図ってもらうため、さまざまに要求をするそうだ。他の場所は、そうして下水が整備されるなど、近代化が進んできた。

ところがこの一角の地権者は、それをせず、下水もいまだに整備されない。その延長に、再開発からも取り残されたということのようだった。

「地権者が、近代化に抵抗したんだ、、」

おれは、思った。

 

京都にも、そういう、お金では動かない地権者は、大勢いる。

四条大宮にあるドヤ街みたいな飲み屋街も、ビルやらマンションやらを建てる引き合いは、ひっきりなしにきているはずだ。そのほうが、いまよりお金になるのは、まちがいないところだと思う。

でもそこの地権者はそれを断りつづけているから、そのドヤ街は、いまだに残っているのである。

 

この登戸駅前、一等地にある一角の地権者も、やはりおなじなのではないだろうか。そういう近代化に背を向けた、ある意味「変わり者」がいたおかげで、再開発をまぬがれて、昭和の世界がいまに残った。

 

居合わせた常連さんも、

「再開発は仕方ないが、おれはこの店が残ってくれただけでよかった」

とつぶやく。

「不幸中の幸いとは、このことですね!」

おれも返した。

 

常連さんが帰ったあと、おでんを頼んだ。

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うすめだがコクがあり、やさしい味。

 

熱燗を飲みながら、さらに女将さんと、両親のことなどを少し話した。女将さんは、おれの母とおなじ世代。お子さんは、おれとおない年なのだそうだ。

女将さんの気取らない性格に誘われて、初対面にもかかわらず、おれは立ち入ったこともずいぶん話した。

こうして、時間がゆっくりと過ぎる店は、そうどこにでもあるわけではない。

 

熱燗を飲み終わり、お勘定をして店を出た。まだ腹が減っていたから、ラーメンを食べていくことにした。

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ここは、「登戸区画整理 駅前店舗」という一角にある。

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再開発で立ち退きしてもらった店を、集めた場所らしい。

 

それでもこのラーメン店は、店の脇に、屋外で飲める場所を用意している。

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再開発前の、小さな店だったときの気概を残しているということだろうか。

 

店のメニューは、ラーメンの他に中華系のメニューも充実している。

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東京のラーメンは鶏ガラだから、おなじスープを使う中華系に、バラエティーを広げやすいのが商売上の利点だろう。

 

頼んだのは、ラーメンと半カレーのセット。ちょうど1000円だったと思う。

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これが大変おもしろかった。

 

まずラーメンは、ベースは鶏ガラだから、東京風。ところがそこに、かなりのひねりが加えられている。

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まずスープに、煮干しダシが加えられている。煮干しだしは、通常は、豚骨だしのかなりコッテリとしたスープに加え、クドさを和らげるとともに、コクを増すために使われると思う。

ところがこれは、アッサリとした鶏がらスープに、うすめの煮干しだしを加えているから、「和風ラーメン」というような、品のある味になっている。

 

次に麺は、東京の中華そばなら、ストレートで細めの麺。それが、縮れ麺が使われていて、さらに東京の昔風ならほうれん草を加えるところ、ワカメが加えられている。

このように、3重にわたってひねりが加えられているのに、味はきちんとまとまっている。

 

それから、カレー。

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これも一ひねりされていて、辛みとともに、甘みをかなり強くしている。

 

店主はどうやら、まだ30代くらいで若いみたいだ。

若い人が、こうしてアグレッシブに攻める味を作るのは、好感が持てると思った。

 

きのうもこうして、おでんとラーメンを食べ、酒も腹も満足して、帰途についた。

登戸、再開発があったとはいえ、昔ながらの気概が残る大変いい街だと、天然記念物のおれは思った。

 

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